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2013 年度 実施状況報告書

絵画に発生する劣化生成物の研究-発生原因と修復処置について-

研究課題

研究課題/領域番号 24501256
研究機関東京藝術大学

研究代表者

鈴鴨 富士子  東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (60532497)

研究分担者 藏品 真理 (栗原 真理)  東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (40532479)
キーワード絵画 / 劣化生成物 / 保存環境 / 修復処置
研究概要

絵画作品の損傷の一つとして、絵画表面に析出する劣化生成物と思われる結晶様の物質の生成がある。絵画の劣化生成物の発生は油彩画の他、アクリル画など、国内外で事例報告がある。絵画作品は技法により様々な材料を用いて制作されるが、本研究では、油彩画作品の他、アクリル画、テンペラ画等を対象に使用材料の違いによる劣化生成物の発生について検証してきた。これまで実施した絵画に発生した劣化生成物の調査結果から、油彩画とアクリル画の生成物は色や形状の異なる様々な種類が確認され、発生原因も複数あると考えられる。また、特定の色の絵具に発生する傾向があることから、顔料と媒材との関連性があることが推察された。
平成25年度は引き続き作品調査を実施し、油彩画5点、アクリル画1点、さらに油彩に土やセメントなどを混合して制作された作品2点の調査を行った。特に油彩に土やセメントなどを混合して制作された作品のように、近年では絵具以外の材料を混合した絵画作品が多くみられる。材料が複合的になることで生じる問題もあり、今後の課題となる重要な調査となった。この混合材料による作品2点の調査から劣化生成物の発生は保存環境の影響が大きな要因の一つと推察され、発生過程などについては今後更に検証する予定である。
その他、これまでに実施した湿熱劣化実験で発生した劣化生成物は調査作品と同様に、形状の異なる数種類が確認されており、形状の違いによる成分の相違について顕微赤外分光法分析を行った。今後は引き続き更に詳細な分析を行い、絵具に含まれる添加剤などの影響などを考察する。そして調査作品および実験結果から劣化生成物の発生要因をより明らかにすると共に、予防的修復処置について考察していく。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究で予定していた調査および実験の進捗状況はおおむね順調と考える。作品調査については油彩画、アクリル画、テンペラ画に加え、平成25年度には油彩と土、セメントを混合した複合的材料の作品の調査を実施した。複合的材料の絵画については近年増加している傾向にあり、今後の課題となる重要な調査となった。先行研究で実施した調査を含め作品調査のデータが徐々に集積されている。
調査作品および実験で発生した劣化生成物の観察から、形状が針状・柱状・微粉末状など様々で、全てが結晶体ではなく非結晶体も確認された。形状の違いについては使用材料(主に媒材)の相違だけでなく、一部の作品で同一作品の中においても数種類の形状の生成物が確認された。分析結果から、油彩画、アクリル画、テンペラ画から主にパルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪酸を主成分とすることが、GC-MS、FT-IR、ラマン分光により明らかとなった。アクリル画については少量のフタル酸ジエチルも確認した。また、顕微赤外分光分析から生成物の形状の種類により共通の成分が含まれている可能性を示唆したが、成分の詳細については継続して分析を行っている。
なお、発生の要因を検証する目的で実施した湿熱劣化実験から、油絵具はRH30%よりもRH90%の条件下で生成物が多くの試料で確認されアクリル絵具および合成樹脂塗料の試料では、RH90%の条件よりもRH30%の条件下で劣化生成物が多く発生する傾向が認められた。更に合成樹脂絵具および塗料のサンプルを用いて、ワニスの塗布と劣化生成物の発生との関連性を検証する目的で湿熱劣化実験を実施し、ワニスの塗布が劣化生成物の発生を予防する可能性を示唆した。
以上のように、これまでの集積した調査および分析データを分類し、制作材料による生成物の特徴や発生要因が明らかになりつつあり、予防的修復処置についての考察も進められている。

今後の研究の推進方策

本研究は絵画に発生する劣化生成物の発生原因を解明して材料の有する特性や保存環境の影響を明らかにし、適切な修復処置を提示すると共に、発生の予防を提言することである。また、本研究の結果から、今後の絵画材料開発へ指針を示すことを目指す。
今後の研究推進方策は、平成26年度も引き続き劣化生成物が確認された作品の調査および分析を行う。また実験は平成24年度に実施したアクリル絵具および塗料を用いて行った湿熱劣化実験から、ワニスの塗布が劣化生成物の予防修復処置の一つとして可能性を示したが、更に油彩における効果を検証する実験を実施し、予防修復処置について考察する。その他、劣化生成物が発生した試料を用いて剥離試験や溶解性に関するテストなどから物性変化を観察し、適切な修復方法の確立を目指す。調査作品の劣化生成物および劣化実験の評価方法は、デジタルマイクロスコープによる表面観察、色彩色差計による色彩測定、赤外線吸収スペクトル測定、顕微赤外分光分析、X線回折、ガスクロマトグラフィー質量分析、ラマン分光測定など種々の分析から総合的に生成物の詳細を明らかにしていく。
平成26年度はこれまで行った作品調査、そして油絵具、アクリル絵具、合成樹脂塗料など異なる絵画材料の試料を用いて行った実験結果を分類してまとめ、材料の有する特性や保存環境の影響を明らかにし、適切な修復処置を提示すると共に発生の予防を提言する。
最終年度となる平成26年度は、本研究の成果は学会等で発表する他、本研究で得られた結果をもとに、研究成果を報告書や投稿論文等をまとめていく。

次年度の研究費の使用計画

分析機器の故障により分析の一部を次年度に繰り越すことになったため、それに伴う試薬類、消耗品類の購入を次年度に行うことになった。また、本研究で行っている作品調査の一部を次年度に実施することになった。
以上の理由により次年度使用額が生じたが、故障した分析機器の修理は終了したので、次年度には分析に必要な視薬類、消耗品類を購入する。また、延期となった作品調査は次年度に実施予定である。
研究費の使用計画については、これまで集積したデータの保存管理のためHDが必要と考えており、また、分析データをまとめるため分析専用のパーソナルコンピューを購入予定である。なお、実験に使用する試料作製および分析に使用する薬品類が必要である。その他、調査や研究成果を発表す際の旅費および報告書作成経費が必要と考える。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2014 2013

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] 絵画に生じる劣化生成物に関する考察 -合成樹脂絵具および塗料の温湿度による影響について-2014

    • 著者名/発表者名
      鈴鴨富士子、蔵品真理、秋山純子
    • 学会等名
      文化財保存修復学会第36会大会
    • 発表場所
      明治大学アカデミーコモン
    • 年月日
      20140608-20140608
  • [学会発表] 絵画に生じる劣化生成物に関する考察 ―予防的修復処置について(I)ー2013

    • 著者名/発表者名
      鈴鴨富士子、蔵品真理、秋山純子
    • 学会等名
      文化財保存修復学会第35回大会
    • 発表場所
      東北大学百周年記念会館川内萩ホール
    • 年月日
      20130721-20130721

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公開日: 2015-05-28   更新日: 2015-06-16  

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