研究課題/領域番号 |
24501256
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
鈴鴨 富士子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (60532497)
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研究分担者 |
藏品 真理(栗原真理) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (40532479)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 絵画 / 劣化生成物 / 保存環境 / 修復処置 |
研究実績の概要 |
平成26年度は引き続き作品調査を実施し、油彩画およびアクリル画の調査を行った。これまで継続して行ってきた油彩画、アクリル画、テンペラ画などの調査から、使用材料(主に媒材)の異なる絵画作品に発生した劣化生成物のデータが集積されてきている。本研究では、絵画作品の中でも油彩画、アクリル画、テンペラ画を対象に使用材料の違いによる劣化生成物の発生について検証してきたが、調査結果から、油彩画とアクリル画の生成物は色や形状の異なる様々な種類が確認され、発生原因も複数あると考えられる。また、特定の色の絵具に発生する傾向があることから、顔料と媒材との関連性があることが推察された。 なお、発生の要因を検証する目的で実施してきた劣化実験を平成26年度も継続して行った。平成25年度の調査作品に油絵具にセメントや土などを混合して制作した作品があり、近年では複合材料を用いて制作された作品が多く見られることから、複合材料による影響を考察する目的でセメントを混合した絵具サンプルを用いて湿熱劣化実験を行い環境による影響を考察した。その結果、セメントの成分を含む劣化生成物の発生が一部の絵具で確認されたが、用いた絵具試料の色によって程度は異なり、絵具に使用された顔料との関連性について更に検証する必要性を示した。また、劣化生成物の発生の予防処置として、平成24年度にワニスの塗布の効果をアクリル絵具を用いた湿熱劣化実験をとして検証した結果、ワニスの塗布が劣化生成物の発生を予防する可能性を示唆する結果を得た。そこで平成26年度は更に油絵具のサンプルを用いた予備テストを実施したが、今後は試料の数を増やして引き続きワニス塗布による劣化生成物発生の予防効果について、油絵具のサンプルを用いて考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の研究の進捗状況は総合的にやや遅れている。平成26年度には初年度から作品調査は継続して油彩画およびアクリル画の調査を実施し、先行研究で実施した調査を含め多くの調査データが蓄積されてきており、調査に関しては概ね順調に進んでいるといえる。これまでの調査作品および実験で発生した劣化生成物の調査結果から、形状が針状・柱状・微粉末状など様々で、全てが結晶体ではなく非結晶体も確認された他、形状の違いについては使用材料(主に媒材)の相違だけでなく、同一作品の中においても数種類の形状の生成物が確認されるなど、使用材料の相違による傾向も明らかになりつつある。 発生の要因を検証する目的で実施してきた湿熱劣化実験については、平成26年度も継続して行った。実験内容は平成25年度の調査作品に油絵具にセメントや土などを混合して制作した作品に発生した劣化生成物があり、近年では複合的材料を用いた作品が多く見られることから、複合材料影響を考察する目的でセメントを混合した絵具サンプルを用いて実験を実施した。その他、ワニスの塗布と劣化生成物の発生との関連性を検証する目的で油絵具のサンプルを用いた湿熱劣化実験を予定していたが、恒温恒湿器の不具合などにより、当初の予定より遅れ予備テストのみが終了している。また、平成26年度は本研究の最終年度に当たり、予定では総括としてこれまでの研究成果のまとめをあわせて行う予定であったが、分析担当の研究分担者が出産を控え、分析作業が困難な状況となったこともあり、研究期間延長の申請を行い承認を得た。平成27年度は平成26年度に予定していた実験を継続すると共に、これまでの研究成果をまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は絵画に発生する劣化生成物の発生原因を解明して材料の有する特性や保存環境の影響を明らかにし、適切な修復処置を提示すると共に、発生の予防を提言することである。また、本研究の結果から、今後の絵画材料開発へ指針を示すことを目指す。 今後の研究推進方策は、平成27年度も引き続き劣化生成物が確認された作品の調査および分析を行う。また実験は平成24年度に実施したアクリル絵具および塗料を用いて行った湿熱劣化実験から、ワニスの塗布が劣化生成物の予防修復処置の一つとして可能性を示したが、更に油絵具における効果を検証する実験を実施し、予防修復処置について考察する。その他、劣化生成物が発生した試料を用いて剥離試験や溶解性に関するテストなどから物性変化を観察し、適切な修復方法の確立を目指す。調査作品の劣化生成物および劣化実験の評価方法は、デジタルマイクロスコープによる表面観察、色彩色差計による色彩測定、赤外線吸収スペクトル測定、顕微赤外分光分析、X線回折、ガスクロマトグラフィー質量分析、ラマン分光測定など種々の分析から総合的に生成物の詳細を明らかにしていく。 最終年度である平成27年度はこれまで行った作品調査、そして油絵具、アクリル絵具、合成樹脂塗料など異なる絵画材料の試料を用いて行った実験結果を分類してまとめ、材料の有する特性や保存環境の影響を明らかにし、適切な修復処置を提示すると共に、発生の予防を提言する。更には本研究の成果を学会等で発表する他、本研究で得られた結果をもとに、研究成果を報告書や投稿論文等をまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の故障により研究延長申請を行い、実験の一部を次年度に繰り越すことになったため、それに伴う実験材料、試薬類等の購入を次年度に行うことになった。また、最終年度の総括として研究成果発表に関する経費が必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費の使用計画については、これまで集積した調査および実験データなどを保存するハードディスクが必要と考える。また、追加実験に使用する試料作製および分析に使用する薬品類が必要である。その他、調査や研究成果を発表する際の旅費および報告書作成経費が必要と考える。
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