本研究は、博物館等の展示・収蔵施設内の有機酸等の汚染空気物質を除去し、空気環境を改善するための除去剤を開発することを目的としたものである。資料に多大な影響を与える汚染物質の代表的なものとしてアンモニアや有機酸(酢酸、ギ酸)、ホルムアルデヒド等があげられ、濃度の許容範囲が定められている。 これまでの研究で、カキ殻粉末を添加した紙パルプを抄紙し、片段加工を施した(吸着能力を高めるため)除去シートが最も吸着効果および汎用性(設置場所や取扱い)のあることが確認でき、新たに除去シートを試作した。添加するカキ殻粉末の配合比を変えて吸着能力を調査した結果、7%配合のシートが最も効果的であったため、この配合比を採用し、ラボ実験および展示・収蔵施設での臨床実験を実施した。実験にあたり、①ラボ実験と臨床実験との差違、②投入量や設置場所による吸着能力の差違、③汚染空気質量による吸着能力の差違と効果の持続性および限界④回収した除去シートの吸着量の測定ついて確認することに注意した。そのため、施設での実験は展示ケースを利用して行った。 臨床実験の結果は概ね良好で、1例を除き、各施設において汚染空気濃度の低下が確認できた。濃度が低下しなかった施設は、展示ケースの構造上、除去シートの設置量を多くすることができなかったことが原因と思われる。長期的に除去剤を設置した施設では(約1年間)、夏期に濃度が若干上昇する傾向が見られた。また、ラボ実験と同じ挙動であるが、除去剤の設置後急速に濃度が下がり、その後は徐々に下降するという状況が見られた。 最終的な除去剤(シート形)の開発が遅れたため、吸着能力の限界を確認することができず課題として残ったが、除去剤の開発行うことができた。今後はこの課題を解決するとともに、今回開発した除去剤のより効果的な利用方法やパネル等の展示用品の開発を行いたい。
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