糖アルコール法から、より安定性・作業性に優れるトレハロース法へ転換を図り、環境に優しく且つ経済的な保存処理方法と成すべく研究を推し進めた。 まず、トレハロース結晶の特性を確認、把握するための研究を行った。糖アルコール法で使用したラクチトールは4つの結晶形が存在し、結晶によっては木製文化財の破壊を生じる。対してトレハロースは2つの結晶形を持つのみで、通常の環境では安定した二水和物しか生成しないことを確認した。また、ラクチトールに比して水への溶解度が低い事から高温での加熱を要すると想像されたが、ラクチトールは一水和物、トレハロースは二水和物を生成させることから、最終含浸濃度を80%から72%程度まで下げることが可能であることが判明した。強度的にはラクチトールよりも優れているため、糖アルコール法程度の加熱で処理を終えられる事が判明した。更に水への溶解度が低いことが幸いし、結晶性が非常に高く、含浸槽からの取上げ直後に結晶を生成し始める。糖アルコール法では結晶を促進する処置が必要であったが、トレハロース法ではその必要がなくなった。 前述のように通常トレハロースは二水和物結晶しか生成しない。これは温度の管理のみで結晶化をコントロールできる事を示している。つまり必要量の結晶が生成する程度に過飽和にすればよい。結晶化の手法は「加熱法」・「冷却法」・「常温法」の3つのみで、生成すべき結晶量から最終含浸濃度を設定すればよい事が明らかになった。これにより、従来は困難であった編み物・布・縄などの特殊遺物の保存処理が容易に行えるようになった。 研究成果は、日本文化財科学会やトレハロース法研究会で継続的に発表を行った。海外では、WOAM(トルコ)、東アジア文化遺産保存国際会議(韓国)での研究発表や、出土木漆器保護国際学術検討会(中国)での招待講演など、最新の情報を国内外で公開し有効性の普及に努めた。
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