研究課題/領域番号 |
24501279
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神奈川県立生命の星・地球博物館 |
研究代表者 |
大島 光春 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (40260343)
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研究分担者 |
広谷 浩子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (10205099)
石浜 佐栄子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 学芸員 (60416047)
田口 公則 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (70300960)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 博物館展示 / 子ども / 動的展示 |
研究概要 |
自然史博物館にふさわしい“動きのある展示”を開発し、それをさらに有効に活用できるプログラムを試行する。 “動きのある展示”とは、動く展示装置と、見学者が自ら動く展示を差し、見学者の心をも動かすことを目指す。今年度は情報収集と既存展示の調査を行い、メンバー間で展示の理解度や感じ方の違いについて議論した。 パシフィコ横浜「ヨコハマ恐竜展2012」では、動くタルボサウルスなど7体の動刻があった。標本展示も混んでいたが、動く恐竜すべてに行列ができていた。 20周年を迎えた名古屋港水族館には、新しい試みが随所に見られた。イルカショーのプールが非常に大きく、観客から遠いので、巨大なモニタが設置されていた。2台のカメラで撮影された映像がリアルタイムで、あるいはリプレーで映し出されていた。野球やサッカーを見ているようだった。水族館の展示は十分動きがあるが、さらにアニマトロニクスではシャチが遊泳を再現したり、生体内部の構造を解説したりしていた。 名古屋市科学館は2011年にリニューアルされ、大型のプラネタリウムが注目されたが、我々の興味は「水の広場」と題された展示で、地表の水循環と位置エネルギーに着目したものである。この展示で水循環を説明するのはかなり苦しいが、ポンプで揚水したり、落水で水車を回したりと、位置エネルギーは実感できる装置になっている。 鉄道博物館は自然史とは直接の関連はないが、元々動いていた車両を静止状態で展示するという意味で動物と共通する課題もある。また、鉄道を運転する体験展示もあった。蒸気機関車の転車台を回転させたり、汽笛を鳴らしたりと、随所に「動き」を取り入れていた。動的展示・運転手になりきる展示・自分が動く(電車の下へ潜るなど)を体験することができた。全体の落ち着いた雰囲気に、わくわくさせる楽しい展示を融合させてあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
体験型の展示に大切な要素は(1)体を動かす、(2)五感を使う、(3)何かになりきることで、その状態に導くために必要な要件は(A)どきどき、わくわくする気持ちを誘発する、(B)参加する気持ちを後押しする、(C)遊んで楽しむ、ことだと考えている。 本年度は、主に2つの研究を行う予定であった。1つは既存の優れた展示を調査し、体験することと、なぜ、どこが優れていると感じられるのかを、上記の要件に照らして分析することだった。予定していた海外博物館の調査は実施できなかったが、9項に記したとおりの実績を残せた。2つめは、館内で子どもの興味を把握するための調査を行うことにしていた。そのため計画では、見学者の行動観察を行い、加えて「デジカメ視点法」を試行する予定だった。これは、子どもにデジカメ持たせて、展示室の写真を自由に撮らせ、撮影した画像をカメラから送信して別の端末で確認するものである。この2つを合わせることで、アンケートや聞き取りよりも子どもの正直な印象・感想に近づけると考えた。その結果を参考にして、次年度以降展示案を作成する予定であったが、今年はその調査がうまくできなかった。 特にデジカメ視点法では、機材の数や機材を扱う習熟度が十分でなく、学校との連携も不十分で、調査の機会を1度しか作ることができなかった。これについてはデジカメとWi-Fi対応のSDカードの相性、画像を受け取るタブレットの性能や無線の到達範囲など、次年度へ向けて技術的な問題が出てきたので、解決方法を検討中である。また調査対象者については、博物館内のイベントなどと連携し、参加者にサンプル提供の協力を要請していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前項で遅れているとした部分について、リカバリーしなければならない。そして、「動的展示」を展示が動くものと観察者が動いていくものとに分け、それぞれについて、考え方を整理し展示を企画する。さらにテーマについても、地学系・生物系のそれぞれについて実践していく。 地学系の動的展示を企画・試作するにあたっては、砂とそれを運ぶ媒体としての水や空気(風)の作用について表現し、理解の助けになる展示を作る。鳥取砂丘で観察できる自然現象や島根県のサンドパークなどの展示も参考にする。展示企画・制作にあたっては、展示空間に水や砂がこぼれる、散らばる、ということが問題になる可能性がある。完成度とともに、メンテナンス性という課題を解決しなければならない。 生物系の動的展示を企画・試作するにあたっては、移動する光源を利用して静止している標本の影を動かすことで展示室に動きを出したり、展示標本の視点から入館者が移動するようすを見られるようにして視点の移動を体験できたりする企画を考えている。 展示によって、必要な場合には補助的な解説プログラムや講座を開催する。単独の展示だけでは十分に理解を促すことができない可能性も、試作段階から想定して準備する。当館では通常の講座のほかに、毎週金曜日に学芸員によるミニレクチャーを行っていたこともあり、そのような形でこのプログラムを展示に組み入れることができる。 展示の効果については、小学生を対象にした調査を行い、本研究による展示を行う前と、後で興味・関心がどのように変化したかということやテーマの理解度などについて調査し、展示の評価としたい。小学生に一般的なアンケート調査にすると、教師や学芸員からの無言の圧力によるバイアスが発生する可能性があり、実際より高い評価になってしまう懸念がある。その点、小学生の自発的な行動を解釈する調査では、現実に見合った評価ができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外を含めた既存の展示調査のための旅費、館内での見学者動向調査のためのデジタルカメラやタブレットとWi-Fi構築のための機材、展示試作のための消耗品、展示制作費用が主な支出目的である。 展示を試作し、単独の展示として被験者に体験してもらい、問題点を改良・改善する。その展示に合わせたプログラムを考案し、展示室内に設置する。再度、最初と同様に子どもの興味を把握するための調査を行い、最初の調査結果と比較することで、展示の効果を検証する。 このサイクルを、ヒトの環境として自然史博物館が子どもに伝えるべき要素として選択した、「水」、「空気(風)」、「砂」、「生物」の4つのテーマで行う。これらはどれも、ヒトの生活に深く関わっているが、多くの子どもはそのことを感じておらず、博物館で意識させることが、大きな気づきを引き出すきっかけになりやすいのではないかと、予測できるからである。
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