研究課題
本研究はモンゴルの半乾燥気候の草原において、土壌水分と蒸発散量の観測データと陸面過程モデルの計算結果の比較検証を行い、陸面過程モデルによる水文過程に関わる要素の算出精度向上に必要な知見を得る事を目的としている。今年度は陸面過程モデルMATSIROに凍土過程を組み込んだ改良版のモデルを用いた計算も行った。現地は季節凍土域に属しており、土壌の凍結融解が水文過程の再現性に大きな影響を及ぼすと考えられる。土壌が凍結した際に凍結した氷は液体水より大きな熱伝導率と小さな熱容量をもつので、そこを考慮したMATSIROに凍土過程を組み込んだモデル(Saito, 2008, JGR)による実験を行ったところ、地中熱流量および顕熱フラックスの再現性は大幅に向上した。一方、表層土壌水分の再現性も多少は向上したが、冬季の凍結時にモデルの方が高い値を示す傾向は変わらなかった(Miyazaki et al., 2013)。さらに、モンゴルでは草原と森林がパッチ状に分布する地域があり、草原に隣接した森林における熱・炭素収支の季節変化と年々変動に関する解析を行った(Miyazaki et al., 2014)。森林は草原に比べて冬季のアルベドが低い事や、森林には地下に永久凍土が存在することにより、草原に比べて蒸発散量の年々変動が小さい事などから草原の水文過程の位置づけを明らかにした。本研究の結果も含んだ他研究費により行われた中国とモンゴルの半乾燥気候の草原域における複数の陸面過程モデルの相互比較結果によると、本研究で得られたのと同様に顕熱フラックスは潜熱フラックスに比べて不確実性が大きく、その原因は乾燥域においては潜熱フラックスは蒸発量が降水量により制限を受けるが、顕熱フラックスは自由度がより大きいことによると指摘された。
2: おおむね順調に進展している
概ね、当初計画通りに研究が進捗しており、当初は想定していなかった土壌水の凍結時の熱伝導を改良したスキームの導入により、顕熱フラックスおよび地中熱流量の再現性が上がる事がわかった。モンゴルでよく見られる草原に隣接した森林における熱・炭素収支に関する解析結果を査読付き論文として出版した。さらに、本研究の成果を他研究費による複数の陸面過程モデルの相互比較実験にも生かすことにより、本研究で用いた陸面過程モデル固有の結果による知見に加えて、より一般性のある知見を得ることができた。
本研究で得られた半乾燥気候の草原における陸面水文過程の再現性向上に関する研究成果についての論文の投稿とその受理を目指すとともに、次の研究課題を模索する。また、成果の社会還元に鑑み、ホームページを通じて成果を発信するために、ホームページの作成を行う。
経費節減により、当初見込みより使用額が少なくなったから成果発表および情報収集を行う為の国内・国際学会等参加の参加費および旅費等に使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Polar Science
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