研究課題/領域番号 |
24501304
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 和民 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (60549591)
|
研究分担者 |
渡邉 俊樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30182934)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ウイルス発がん |
研究概要 |
1. Rexの変異体を用いたNMD抑制機構の解明:NMD抑制に必須なRexのドメインを検討するため、各ドメイン(RNA binding/NLS、 NES、または multimerization domain)欠損Rexの発現プラスミドを作成し、各々のNMD抑制効果をWT-Rexと比較した。これまで、RNA binding/NLS domainを欠損したRexはWT-Rexとほぼ同等のNMD阻害効果を示し、他のドメインの重要性が示唆された。 2. Rexのレンチウィルス発現系の構築とT細胞株への導入:当初、T細胞株でのRexの強制発現系にレンチウィルス発現系を用いる計画であったが、発現効率の良いウイルスが得られなかったため、レトロウィルスベクター系に切り替え、Rexを安定的に発現するT細胞株を樹立することに成功した。これまで、Rexを過剰発現しているCEMとMolt4で、NMD活性が有意に抑制されており、HTLV-1の感染の場であるヒトT細胞においても、RexがNMD抑制機能を発揮することが確認できた。 3. HTLV-1の無細胞感染系の確立とヒトT細胞への感染実験:HTLV-1感染細胞株の一つであるMT-2から、感染能力を保持したウイルス粒子を単離するため、様々な条件検討を行った。大別してMT-2の培養上清を集める方法と、MT-2を超音波破砕し、細胞表面のウイルス粒子塊のみを集める方法を試した結果、前者ではMT-2の混入を防ぐことが難しく、濾過などを行うとウイルスの感染効率が非常に低下してしまうことが分かった。一方、超音波破砕によって集めたウイルス粒子は、十分に感染能力を残しており、T-細胞株JurkatやヒトPBMCにHTLV-1を感染させることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、概ね当初の計画通りに達成できていると考えられる。一方項目1でのRexの変異体作成では、当初C末側にあるドメイン(NES、または multimerization domain)の欠損には、C末端にあるstability domainをも欠損する形で変異体を設計したため、細胞内での発現量が非常に低くなり、NMD活性を測定するアッセイにおいて信頼できるデータが得られない、という欠点に遭遇した。そこで目下、stability domainを保持した構造の変異型Rex発現プラスミドを作成している。また、項目2のレンチウィルスベクター系を用いたRexの過剰発現系の確立では、Rexの発現が予想通りには得られず、レトロウィルスベクター系に切り替えるという方策を採った。我々の研究室では他にも目的タンパク質によってレンチウィルス発現系では発現が難しいものがあるという経験をしている。以上のように、24年度は主に手法の確立に重点を置いた一年であったが、条件検討に予想以上の時間が必要であった。25年度以降はこれらの手法を用いて実験を行い、結果を出していくことを目標としているが、条件検討の時と細胞が変われば、新たな試行錯誤が必要となるかもしれない。実験計画に余裕を持って、着実に一歩一歩進んでいく必要があると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. Rexの変異体を用いたNMD抑制機構の解明:新たに作成したドメイン欠損型Rexの発現プラスミドを用い、NMD抑制に中心的な働きをするRexのドメインを同定する。次にNMD抑制に重要なドメインを欠損したRexを作成し、その細胞内局在や細胞タンパク質との相互作用をWT-Rexと比較し、そのドメインがどのような細胞内タンパク質とどこで相互作用することによってNMDを抑制しているのか検討する。 2. Rexのレンチウィルス発現系の構築とT細胞株への導入:Rexを安定的に発現した場合、T細胞株にどのような影響が現れるのか、遺伝子発現マイクロアレイ解析によって網羅的に検討する。また、NMDを抑制することにより、NMD標的遺伝子の発現量が乱れると予想され、その結果細胞恒常性にどのような変化が現れるか観察する。一方、レトロウィルス発現系を用いてRexをヒトprimary PBMCに導入し、HTLV-1の感染初期に被感染T-細胞でRexが発現することにより起こっている事象を再現する。 3. HTLV-1の無細胞感染系の確立とヒトT細胞への感染実験:これまで、HTLV-1産生細胞株MT-2を超音波破砕し細胞膜上のHTLV-1ウイルス粒子を回収することにより、十分な感染能力を有したHTLV-1ウイルスを得ることができるようになった。今後は引き続きPBMCへのHTLV-1感染実験を行い、PBMCへの短期的、長期的な影響を観察するとともに、T-細胞およびB-細胞への感染効率の違いなどを検討していく予定である。これにより、HTLV-1がヒト細胞に広汎に存在するGLUT1を介して感染するのに対し、不死化し腫瘍化する細胞はT-細胞に限られる仕組みの解明に一歩近づけると期待している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|