研究課題
基盤研究(C)
われわれが発見したCHD8は、SNF2スーパーファミリーに属するATP依存性クロマチンリモデリング因子であり、クロマチン上にリンカーヒストンH1を呼び込むことによってp53機能を抑制する [Nature Cell Biol. 11: 172 (2009)]。予備的な研究によって、CHD8の強制発現はp53誘導性の細胞老化を抑制すること、CHD8強制発現細胞はヌードマウス移植で腫瘍を形成することが明らかになっている。本研究では、発現誘導型CHD8トランスジェニック(i-CHD8)マウスを用いて、1)CHD8が細胞レベルでの老化に果たす役割の解明、2)CHD8が個体レベルでの老化に果たす役割の解明、3)CHD8発現誘導による癌の発症機序の解明、の3点を目的としている。まず発現誘導型CHD8トランスジェニック(i-CHD8)マウスを作製し、遺伝学的にCHD8の発現レベルを調節して、細胞老化とトランスフォーム活性に及ぼす効果を検証した。遍在的に発現しているROSA26遺伝子座に、loxP配列で挟んだstopカセットに続けてCHD8のcDNAをノックインしたマウスを作製した。このマウスでは、Creリコンビナーゼによってstopカセットが除去されると、内因性のROSA26プロモーター下にCHD8が発現誘導される。誘導するCHD8のコピー数(1または2アレル)とプロモーター(ROSA26またはCAG)が異なる系統を作製し、CHD8の発現量を調節することに成功した。これらのマウス胎仔から調製した線維芽細胞(MEF)ではp53の転写活性が抑制されており、細胞老化が抑制されることが明らかとなった。またこれらのMEFは単層培養でフォーカスを形成し、強力なトランスフォーム活性を示すことが判明している。
4: 遅れている
平成24年2月に当研究所・発生工学実験施設にて蟯虫による感染事故が発生し、以降約5ヶ月間に渡ってマウスの交配が禁止された。本研究を遂行するために必要な遺伝子改変マウスの作製が予定より大幅に遅れ、世界トップレベルの研究を目指す上で大きな痛手であった。同年7月に感染が終息し、現在その遅れを取り戻すために急ピッチでマウスの交配を進めており、引き続き世界一を目指して研究に精進したい。
発現誘導型CHD8トランスジェニック(i-CHD8)マウスにおける組織幹細胞の細胞老化、組織老化および寿命について詳細に解析する。またCHD8の発現誘導が生体内で癌を起こすかどうかを検証し、CHD8の発現レベルを調節することによって、癌を起こさずに寿命を延長することが可能かどうかを検討する。さらにi-CHD8マウスを用いたプロテオームおよびChIP-seq解析によって、CHD8による老化と癌のシグナルネットワークを網羅的に解析し、それらを細胞レベルと個体レベルで証明する。このように細胞レベルと個体レベルの二つの方向より老化研究を発展させ、それらを融合させて老化と癌の分子機構の全貌解明を目指す。具体的な達成目標は下記の通りである。1)i-CHD8マウスの個体レベルでの解析。Cre-loxPシステムによってCHD8を時空間特異的に発現誘導し、マウスにおける組織老化および寿命について詳細な観察を行う。2)CHD8標的遺伝子の網羅的探索。CHD8の標的遺伝子はp53以外にも存在することが示唆されており、i-CHD8マウス由来の細胞あるいは組織を用いて複合体解析およびChIP-seq解析を行う。3)老化と癌の分子機構の解明。これは前段階研究によってCHD8が単独で強力なトランスフォーメーション活性を示すことがほぼ確定しているが、実際に生体内で癌を起こすかどうかを検討するためにi-CHD8マウスの発癌率と生命予後について検討する。
該当なし
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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