研究課題
組織幹細胞の老化は神経変性疾患や癌などの加齢関連疾患の発症に深く関与している。最近の知見では、老化した組織幹細胞の機能を回復させることによって、これらの疾患を治療できる可能性が示唆されている。われわれは、クロマチンリモデリング因子CHD8が癌抑制タンパク質p53に結合し、アポトーシスを抑制することによって発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを発見した。その後の研究で、CHD8はp53誘導性のアポトーシスだけでなく細胞老化も抑制し、強力な発癌活性を示すことが明らかになった。つまりCHD8は強力な抗老化分子である。また最近、自閉症スペクトラム障害の最も有力な原因候補遺伝子としてこのCHD8が同定され、世界中で大きな反響を呼んでいる。われわれの研究によって、CHD8は神経幹細胞機能の維持に必須であり、CHD8へテロ欠損マウスは自閉症様症状を呈することが判明した。そこで、今後の研究では「組織幹細胞の若返りによる疾患治療」を目指し、CHD8による幹細胞老化制御メカニズムの全貌を解明すると共に、神経変性疾患や癌などの加齢関連疾患にこのシステムがどのように関与しているのかを明らかにする。具体的な到達目標としては、(1)種々の組織幹細胞におけるCHD8の発現パターンを解析する。(2)コンディショナルノックアウトマウスを用いて、幹細胞老化におけるCHD8の役割を評価する。(3)網羅的解析によってCHD8の上下流分子を同定し、幹細胞老化の制御メカニズムを明らかにする。(4)発現誘導型トランスジェニックマウスを用いて、癌を起こさずに個体老化を抑制する発現レベルを決定する。本研究の遂行によって、幹細胞老化のエピジェネティック制御機構とその制御異常によるヒト加齢関連疾患の発症メカニズムが明らかになり、その根本的治療法の確立へつながることが期待される。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)
Molecular and Cellular Biology
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