研究課題/領域番号 |
24501306
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田部 陽子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70306968)
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研究分担者 |
岩渕 和久 順天堂大学, 医療看護学部, 教授 (10184897)
金 林花 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (90531955)
笹井 啓資 順天堂大学, 医学部, 教授 (20225858)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低線量放射線 / 骨髄微小環境 / 前がん細胞 / 間質細胞 / アポトーシス |
研究概要 |
本研究は、低線量放射線暴露によって前がん細胞および間質系幹細胞の遺伝子発現とその調節機構にもたらされる不安定性を明らかにし、同時に生体内微小環境の中での両者の相互作用のもとで、低線量放射線ストレスが与える生存シグナル活性化機構を明らかにすることを目的とする。当該年度の研究では、前がん細胞における低線量放射線被爆前後の遺伝子発現変化を網羅的に解析し、ジェネティックな変化の詳細を検討した。 すなわち、正常ヒト骨髄より分離した間質系幹細胞 (mesenchymal stem cell; MSC)とヒト不死化細胞 (HEV; EBウイスル感染により増殖能を獲得したヒトB細胞株) をそれぞれ単独および共培養し、100, 300, 1000 mGyの放射線を照射し、各線量の放射線が、これらの細胞の生存・増殖・アポトーシスに与える影響および遺伝子変化について検討を行った。その結果、単独培養HEVは、1000mGy照射24-48時間後に細胞死を伴う細胞増殖抑制とp21遺伝子の発現上昇を示したが、100mGy(低線量放射線)照射では、軽微な増殖抑制と細胞死比率の減少のみを認め、p21遺伝子の変化は認めなかった。一方、単独培養MSCでは、100mGy照射24時間後に細胞死誘導を認め、p21遺伝子の発現上昇を観察した。また、100mGy照射後のMSCにおいて細胞接着に関与する複数の遺伝子の有意な発現上昇を認めた。非照射HEVを100mGy暴露後のMSCと共培養し、遺伝子発現の変化を調べたところ、細胞遊走、接着に関わるIL-8遺伝子および抗アポトーシスに作用するBcl-2遺伝子の発現上昇が認められた。 以上より、前がん細胞と間質系幹細胞の低線量放射線に対する感受性が異なり、両者の相互作用のもとで、低線量放射線ストレスが前がん細胞の生存シグナル活性化を促す可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究結果より、生体微小環境内において、低線量放射線は、間質細胞の細胞死を誘導する一方で、細胞接着、細胞周期停止関連遺伝子の上昇を誘導することがわかった。さらに、これらの低線量暴露間質細胞と共培養した前がん細胞において、細胞遊走、接着、抗アポトーシス関連遺伝子の上昇が観察され、低線量放射線が、間質細胞の変化を介して前がん細胞の生存を促す可能性が示唆された。 本年度の研究の達成度としては、低線量放射線によって生じる細胞内分子シグナルや細胞間の相互作用の変化、さらにその結果として生じる細胞生存、細胞死、増殖、等、腫瘍化に関連する細胞分子レベルの知見を蓄積する作業の中で、まず、細胞周期の変化や細胞死誘導の有無と遺伝子変化の網羅的検索が終了し、細胞生存、アポトーシス、細胞遊走、接着に関わる複数の遺伝子の変化が明らかになった。また、共培養システムにより、低線量放射線被曝後の間質細胞の前がん細胞に対するバイスタンダー効果をはじめとして、生体微小環境内での細胞間の相互作用のもとで生じる低線量放射線被曝の影響を示唆する知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト間質細胞および前がん細胞の共培養システムを用いて、低線量放射線(100 mGray)を照射後の単独および共培養条件下での各細胞の蛋白発現の変化についてプロテオミクス解析を行う(バイスタンダー効果検討のための条件も加える)。プロテオミクス解析は、LC-MS/MS (iTRAQ) システムおよび2次元電気泳動法を用いて蛋白発現、リン酸化修飾の変化の網羅的に検出を行う。プロテオミクス解析とcDNAアレイ解析から得られた遺伝子、蛋白の発現変化についてMetaCoreプログラムやKEGG ontologyプログラムを活用ひてパスウェイ解析を行う。定量的RT-PCR法によって、cDNAアレイ結果の検証と確認を行うとともに、検討の中で検出された分子シグナル活性の変化に関連する遺伝子調節をつかさどるmicroRNAを抽出し、microRNA-PCR解析を実施して、特定のmicroRNAの関与を調べる。iTRAQ法および2次元電気泳動法で検出された蛋白レベルの変化については、炎症や発がんとの関連が示唆される因子のシグナル活性化の増強、減弱が認められた場合、ELISAやウエスタンブロット法を用いて検討を加える。低線量放射線の照射後MSC培養液上清を採取して、MSCが産生する液性因子(増殖因子、ケモカイン、サイトカイン)産生量の経時的変化を調べる(ELISA法)。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬(抗体、iTRAQ関連試薬等) 1300,000 実験消耗品(培養フラスコ等) 300,000 統計ソフトウェア 100,000
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