研究課題/領域番号 |
24501306
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
田部 陽子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70306968)
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研究分担者 |
岩渕 和久 順天堂大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10184897)
金 林花 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (90531955)
笹井 啓資 順天堂大学, 医学部, 教授 (20225858)
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キーワード | 低線量放射線 / 微小環境 / 前がん細胞 |
研究概要 |
本研究は、低線量放射線が生体内微小環境の中で、前がん細胞および間質系幹細胞の遺伝子発現、タンパク発現とその調節機構にどのような影響を与え、発がんに関与するのかを明らかにすることを目的とする。当該年度の研究では、前がん細胞における低線量放射線被爆前後のタンパク発現変化を網羅的に解析し、ジェネティックな変化との関連性を検討した。 正常ヒト骨髄より分離した間質系幹細胞 (mesenchymal stem cell; MSC)とヒト不死化細胞 (EBV-B; EBウイスル感染により増殖能を獲得したヒトB細胞株) をそれぞれ単独および共培養し、低線量放射線(100mGy)を照射し、各線量の放射線が、これらの細胞のタンパク発現に与える影響について、LC-MS/MS proteomics (iTRAQ) を用いて網羅的に検出した。iTRAQによりMSC、EBV-B細胞から1,500以上のタンパクの発現が検出された。MetaCoreおよびKEGG ontologyをもちいたパスウェイ解析の結果、100mGy照射24時間後に、MSCでは32タンパクの発現が上昇、1タンパクの発現が有意に低下し、focal adhesion pathwayの活性化が検出された。単独培養EBV-B細胞では、47種類のタンパク発現が有意に上昇し、そのうちの40%はリボゾーム関連タンパクであった。発現が低下した19タンパク中6タンパクがアポトーシス/老化関連タンパクであった。一方、MSCとの共培養下のEBV-B細胞では34タンパクの発現が低下したが、そのうちの25タンパク(74%)がリボゾーム関連タンパクであり、単独EBV-B細胞とは明らかに異なる結果が得られた。これらの結果より、低線量放射線曝露後の前がん細胞では、いずれも放射線ストレスに反応した抗アポトーシス機構が作用することが示唆されたが、作用機序は、異なるものであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、ヒト間質細胞および前がん細胞の共培養システムを用いて、低線量放射線(100 mGy)照射後の各細胞の遺伝子、蛋白発現変化に関するゲノミクスおよびプロテオミクス解析が終了した。今後は、検討の中で検出された分子シグナル活性の変化に関連する遺伝子調節をつかさどるmicroRNAの役割について検討する。低線量放射線照射前後のEBV-B細胞を対象として、microRNA-PCR解析を実施し、特定のmicroRNAの関与を調べる。また、前がん細胞で検出されたシグナルの活性化に関与すると考えられるサイトカイン、ケモカイン、増殖因子の変化について、ELISA法やウエスタンブロット法を用いて検討を加える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、ヒト間質細胞および前がん細胞の共培養システムを用いて、低線量放射線(100 mGray)を照射後の単独および共培養条件下での各細胞の蛋白発現の変化についてゲノミクスおよびプロテオミクス解析が終了した。今後は、検討の中で検出された分子シグナル活性の変化に関連する遺伝子調節をつかさどるmicroRNAを抽出し、microRNA-PCR解析を実施して、特定のmicroRNAの関与を調べる。また、前がん細胞で検出されたシグナルの活性化に関与すると考えられるサイトカイン、ケモカイン、増殖因子の変化について、ELISAやウエスタンブロット法を用いて検討を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験に用いる消耗品の使用量が当初見積りよりも減少したため、19,128円の未使用額が生じた。 未使用額分は、次年度の消耗品購入に充填する計画である。
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