研究課題/領域番号 |
24501307
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
稲垣 秀人 藤田保健衛生大学, 総合医科学研究所, 助教 (70308849)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / アメリカ |
研究概要 |
がんや生殖細胞系列で見つかる染色体相互転座は、2つの染色体切断末端が元通りに修復されずに、異なる染色体どうしで間違って再結合することにより形成される。しかしなぜ物理的に遠位にある可能性のある2つの染色体どうしが再結合されるのか?あるいはDNA断端を近接させる未知のしくみが存在するのか? そこで本研究では、高頻度に発生する生殖細胞系列の相互転座t(11;22)を例に、染色体上の特殊なDNA配列あるいはDNA高次構造(non-B型DNA)が、切断を引き起こし、生体内で再結合されるまでの一連の機構を手がかりに、従来のDNA修復機構だけでは説明出来ない、体細胞系列あるいは生殖細胞系列の染色体相互転座の新しい発生機構を明らかにすることを目的とする。 本年度は、導入DNAの構築およびLive Imageで観察できるかどうかを検討した。転座を誘発するヒトのパリンドローム配列(PATRR)を蛍光タンパク質遺伝子の結合配列に隣接して配置し、発現タンパク質が遺伝子導入の正否、およびパリンドローム配列の核内局在の両者に対するモニターとして機能するかを検討した。また、遺伝子導入については従来のトランスジェニックメダカ作製および減数分裂細胞のin vitro培養でのtransfectionの2種類について検討した。次年度も様々なパラメータについて検討予定である。 一方、ヒト細胞におけるパリンドロームを介した染色体転座のモデル系にて、その発生機序および関与する遺伝子群を同定した成果に関した論文を、Nature Comm.にて報告した。ArtemisおよびGEN1など、発がんにも関わる重要な遺伝子群がこのパリンドロームの高次構造を誤認識して切断するメカニズムとして明らかになった事実は、現在の研究の進展に役立つのみならず、将来的には転座発生の予防を見据える上で重要な知見であり、新聞等にも掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高頻度に発生する染色体転座t(11;22)について、その転座モデル系をメダカに応用し、その減数分裂過程を、試験管内で再現するためのコンストラクトは順調に作製しており、いくつかの種類について検討を進めている。また生殖細胞系列でおこるt(11;22)はDNAパリンドローム配列が十字架型のDNA二次構造を形成して起こると想定しているが、それのみならず、一部のがんの転座発生に関わるとされる別のDNA二次構造、四重鎖DNA構造を形成する配列についても、同様にコンストラクトを作製し、その発生機序を体細胞、減数分裂細胞で観察することを目指し、その条件について検討をしている。これらのDNA高次構造がゲノム不安定性を誘発する原因については、その高次構造形成と、その後のDNA切断に至るまでの過程の2つの重要なステップがあるが、それだけでなく、それぞれのDNA切断末端が核内でどのように配置されるかはその2つの構造で異なる可能性がある。これらを観察する上で、現在作製しているコンストラクトの最適化がそれぞれ今後必要であると考えられる。この2つの構造、十字架型と四重鎖DNAで異なる観察結果が得られる可能性もあるが、それぞれの転座の成立過程を知る上で比較対象として利用出来ることが期待される また、パリンドロームが関わる染色体転座の発生機構については、それに関わる遺伝子群をヒト細胞にて同定し、その結果をまとめて論文として発表した。この成果は当該研究をさらに進展させる上で重要なポイントとなり、今後転座発生に関わる候補遺伝子を探索する上での遺伝子ノックダウン等の実験を進める上での鍵となる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
Live Image用のトランスジェニックメダカあるいはcell lineを構築後、減数分裂細胞にてその核内配置を観察する。脊椎動物では珍しいメダカ減数分裂細胞のin vitro分化の技術を有効に活用して、精子形成において4n, 2n, 1nと染色体が分配されて行くどのタイミングで染色体転座が発生するかを、細胞レベルおよび分子レベルで解明し、転座発生メカニズムの分子機構を明らかにする。 また、転座を引き起こすDNA配列として、生殖細胞系列で関与するパリンドロームのみならず、non-B型DNAの別のタイプとして、四重鎖DNAについても現在検討している。これは、RAGが関与する転座でがんに関わる重要な遺伝子に存在する構造として最近指摘されており、またこの配列の生体における重要性からも着目されつつある。この四重鎖DNAに関しても同様にコンストラクトを作製し、導入して核内配置などを調べることで、生殖細胞系列、および体細胞系列でおこる染色体転座の発生メカニズムの共通性を解明することをめざす。 さらに、メダカの減数分裂細胞のin vitro分化の系が安定して運用出来れば、応用として例えば、遺伝子ノックダウンの手法を用いて、関与する遺伝子群を同定するなどの研究が容易になり、パリンドローム、四重鎖DNAやその他の特殊なDNA配列に起因するさまざまなゲノム不安定性の発生メカニズムの解明に役立つことが期待されるため、その実現をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に端数の残金が発生したが、次年度にこの金額を超える試薬の購入代金に充て、効率的に運用する予定である。
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