研究課題
がんや生殖細胞系列で発生する染色体異常として知られる染色体相互転座は2カ所の染色体切断末端が誤って繋ぎ直されて発生する。しかし、本来繋ぎ直されるべき末端の方が物理的に近接してるはずにも関わらず、遠位であろう間違った末端と結合されるしくみはよくわかっていない。そこで本研究では、およそ数万分の1の細胞で発生する生殖細胞系列の相互転座t(11;22)を用いて、染色体上の特殊なDNA配列が形成する高次構造(non-B型DNA)が切断を誘発し、生体内で再結合するまでの一連反応を、従来の修復メカニズムでは説明できない新しい機構が存在することを想定して、そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き導入遺伝子の構築及び改変、およびLive Imageでの観察の最適化を検討した。切断標的となる配列の不安定性からくるクローン化の困難さを乗り越えるために、配列を変更し、また検出蛍光タンパクを改変してより強い蛍光での検出を目指した。さらに、トランスジーンの手法由来の、導入位置およびコピー数のランダムさを無くすべく、最近実用化されたCRISPR-CAS9システムを用いて、染色体の場所特異的に導入する(homologous recombination)手法についても検討中である。また一方、前年度に明らかにした標的配列の切断メカニズムを応用して、切断をより効率的におこなうためにGEN1の発現を誘導して効率を上昇させる実験も実施中である。
2: おおむね順調に進展している
ヒトで発生するt(11;22)のしくみを応用して、メダカの減数分裂細胞で人工的に転座を誘発し、その減数分裂過程を試験管内で再現するためのコンストラクトの作製について、当初使用する予定であった蛍光タンパクの蛍光がやや弱く、検出が若干困難であった。そのため、蛍光タンパクの改変をおこない、また結合配列のリピート数を増加させることにより、作製し直し、高効率で検出できるように改変を繰り返している。また、導入部位に多コピー導入される問題については、これが染色体切断の効率に影響を与えることを勘案し、改良が必要であった。そこで、つい1年ほどの間に広まった新しい遺伝子導入のしくみ(CRISPR-CAS9)を用いることで、導入遺伝子のコピー数を制御するとともに、導入部位も選択ができるようになった。この手法の効率を上げることで、モザイク率も上昇し、観察可能なレベルでの遺伝子導入系が構築できるようになると期待される。標的配列に関しても、共同研究によりヒトで見つかった別の転座誘発配列もこの系に用いて、当該研究の遂行に有効に利用する予定である。
現在までに明らかになった問題点は効率であるので、今後はその観点からさらに導入配列のモザイク率を上昇させる、あるいは蛍光の検出感度を上げるなどして、観察の効率を上げてデータの収集をおこなう予定である。また、この転座のメカニズムに関わる分子機構の解明は、今後の大きな課題になると考えられる。この研究のメダカの減数分裂細胞のin vitro分化の系が安定して運用できるようになれば、関与する遺伝子群の同定に役立つと思われる。特に、最近脚光を浴びているCRISPR-CAS9などの人工的遺伝子破壊系の新たな手法は、従来のsiRNAとは異なり、確実に両アレルの遺伝子を不活化できることから、今後さまざまな研究での応用が期待されているが、本研究にも応用して、試験管内での実験の効率化に結びつくことが期待できる。ゲノムの不安定性の発生メカニズムには、現在パリンドローム、4重鎖DNAなど、特殊なDNA配列が関与することに注目が集まっているが、これからはゲノムワイドな視点からも、この不安定性を引き起こす原因について配列以外での要因、すなわちエピゲノムな観点からも考えていきたい。そのためゲノムワイドに探索する方法についても検討している。
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