研究概要 |
HIV-1アクセサリー遺伝子産物Vprによる染色体転座を明らかにした: ① Vpr発現細胞(48hrs)によるmulti-FISH(23色)による、染色体数の異常および転座・挿入の有無について網羅的な染色体分析を行った。コントロール細胞(mock transfectant: DOX-, DOX+ ;Vpr-transfectant, DOX-)では転座数は全体の5%未満であったのに対し、Vpr発現細胞(Vpr-transfectant, DOX+)ではおおよそ30%に認められた。このうち、姉妹染色分体の早期分離(PCS)が誘導されている細胞は20%を締めている。先に研究代表者が論文発表をしているように、HIV-1感染で認められるPCSの責任遺伝子はVprである。PCSが誘導されるに充分なVpr発現量を伴う細胞で、転座も誘導されたことを示唆する。転座の明確なホットスポットは認められなかったが、やや染色体番号が大きい染色体での転座が多い傾向を示した。興味深いことに、断片化したchromosome minutesも観察された。 ② リンパ腫で既知の転座領域c-myc-IghのFISHを行った。c-myc-Igh陽性 Ramous細胞株では転座を100%で認めたが、Vpr発現細胞(Vpr-transfectant, DOX+)では、約800細胞中該当する転座は観察されなかった。 ③ HIV-1感染T-Cellと非感染のB-cellの2重培養法の確立: HIV-1はCD4陽性細胞であるT-cellに感染する。HIV-1感染で高頻度のリンパ腫はB-Cellである。感染T-cellから放出されるHIV-1由来蛋白質による、非感染B-cellの染色体異常を明らかにする目的として手法を確立した。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の項目について見られる染色体数の異常および転座・挿入の有無について網羅的に解析する。 ①Vprによる染色体転座の機序解明:a)細胞周期依存性、b)DNA切断との関与:Vprは細胞内に活性酸素を誘導する。活性酸素のscavengerであるN-アセチルシステイン等を添加する。c)ヒストン修飾との関与:VprはヒストンH3K9のアセチル化を誘導する。これまでの研究成果よりp300が関与している。そこで、p300RNAiやp300の活性阻害剤を処置する。② HIV-1感染による染色体転座を明らかにする:a)HIV-1感染実験(野生型、変異型各種)をヒト由来の末梢血単核球細胞に対して行う。b)HIV-1関連リンパ腫で既知の転座領域のFISHを行う(c-myc-Igh等)。③ 感染者血清中に存在するといわれているHIV-1由来蛋白質(Nef,Tat,gp120)の細胞発現、もしくはリコンビナント蛋白質の培養上清中への添加を行う。④ 感染T-cellから放出されるHIV-1由来蛋白質による、非感染B-cellの染色体転座への影響を明らかにする。確立している、HIV-1感染T-Cellと非感染のB-cell2重培養を行う。⑤ 臨床検体(HIV-1感染リンパ腫)。
|