研究実績の概要 |
抗エイズ療法の普及によりHIV-1 感染者の予後は改善されたが、発癌率は非感染者より高く、感染者の予後を左右している。悪性リンパ腫は感染者の約20%に報告され、感染によるゲノム不安定性の背景が潜在していると考えた。本研究では、感染によるゲノム不安定性や未成熟B細胞に関わるエピゲノム変動を細胞株や臨床検体に認めた。① HIV-1,Vpr安定発現細胞では、48時間で約30%の細胞に再現よく転座を認めた(multi-FISH解析)。p300の活性阻害剤(AA)で転座は減少,premature sister chromatid separation (PCS)の多い細胞では、増大傾向を得た。代表らは、感染細胞の染色体数異常を誘導するPCSが、Vprによるp300の異常なクロマチン局在が原因であることを明らかにしてきたが、転座においてもクロマチン修飾との関連性が示唆された。② 臨床検体:感染者末梢血を用いたゲノム不安定性解析の結果、血中ウイルス量は抗エイズ治療により検出限界以下にコントロールされている症例にも関わらず、28例中7例でゲノム増幅(CGH)の異常、15例中7例でPCSを示した。2例はCGHとPCSの両方が認められた。以上より、抗エイズ治療下でもゲノム不安定性を示す症例が存在することが示唆される。また、並行して行ったゲノムワイドなエピゲノム解析(他の研究費)では、リンパ腫発症の数年前より、リンパ腫発症のDNAメチル化変動と類似したDNAメチル化変動が既に存在することを、全例(3/3)に見いだした。主に未熟B細胞機能に関連していることが興味深く、現在、論文準備中である。以上より、HIV感染者の染色体転座、PCS、エピゲノム変化などゲノム不安定性が強く示唆された。本研究より、リンパ腫のリスク群を示唆するバイオマーカー探索への発展が期待できる。
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