今年度は、脂質アレイを用いた解析から、カルジオリピンに加えてホスファチジルイノシトール-3‐リン酸などのリン脂質に特異的に結合することを明らかにした。VASH2の細胞内局在は、癌細胞の種類によって異なり、一様にミトコンドリアに集積するわけではないことを確認した。データベース解析によって、VASH2蛋白にはリン脂質結合やリン酸化チロシン結合に関わるドメインが進化上高度に保存されていることが新たに示された。VASH2のリン脂質結合性に寄与すると予測されるアミノ酸に変異を加えるとVASH2の細胞外分泌が抑制されたことから、脂質との結合が細胞内局在や細胞外分泌に重要であることを明らかにした。種々の癌および腫瘍細胞株におけるVASH2の発現レベルを比較解析したところ、横紋筋肉腫株でVASH2が高発現しており、特に悪性度の高い胞巣型RH30細胞株で最も高い発現が確認された。RH30のVASH2をノックダウンしたところ、p53とアポトーシスに関わる遺伝子の発現が大きく変動することを見いだした。 本研究では、三年間を通じて以下の研究成果を得ることができた。 1)癌細胞におけるVASH2の発現はmiR-200ファミリーによって制御されること、2)VASH2ノックダウンにより、種々の遺伝子の発現変化を伴って上皮間葉転換が抑制され癌細胞の遊走能・浸潤能が抑制されること、3)VASH2は脂質結合ドメインを有し、脂質との結合がVASH2の細胞内局在や細胞外分泌に重要であること、4)胃癌発症モデルマウスを用いた解析から、胃癌組織ではVASH2が高発現し、VASH2欠損によって炎症や血管新生等に関わる遺伝子の発現が低下し胃癌の発育が抑制される傾向が確認された。 以上の成果から、癌におけるVASH2の発現は癌発育と悪性化に寄与し、VASH2の発現を阻害することで癌悪性化の一端を抑制できることが明らかとなった。
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