研究課題
日本人の卵巣癌の約25%を占める明細胞癌は、高い抗癌剤耐性を示すため予後が悪い。本研究では腫瘍形成の要となる癌幹細胞を標的とした治療法を開発するための基礎研究を行った。我々は卵巣明細胞癌幹細胞を手術検体より濃縮し、無血清培地を用いて幹細胞様性質を維持したまま継代培養することに上皮性腫瘍で初めて成功した。この卵巣明細胞癌幹細胞は癌幹細胞マーカーCD133の強い発現が認められた。腸管上皮幹細胞マーカーとして同定された7回膜貫通型タンパク質LGR5は、Wntアゴニストとして知られていた分泌タンパク質であるR-spondinファミリーがリガンドであることが判明し、Wntシグナルの新たな構成因子として注目を集めている。卵巣明細胞癌幹細胞の遺伝子発現パターンを解析した結果、LGR5の発現を認めたことから、Wntシグナル伝達経路の重要性が示唆された。R-spondin-LGR5軸の分子機構を解析するために、LGR5の相互作用因子を調べた結果、Wntシグナルの主たる制御因子であるβ-catenin分解複合体との相互作用を見出した。さらに、R-spondin/Wnt刺激により、LGR5複合体からAxin1が解離することを明らかにした。疑似リン酸化変異体を用いた実験から、Axin1 160番目のスレオニン残基のリン酸化修飾が、Axin1-APC相互作用の解離を促進していることを見出した。以上の知見を統合すると、卵巣明細胞癌幹細胞の治療標的として新たにR-spondin-LGR5軸を見出した。さらに、その下流に位置するAxin1の新規リン酸化修飾を同定した。従ってLGR5を標的とする抗体と、Axin1のリン酸化修飾を標的とする低分子化合物の両方が新規治療法として期待される。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件)
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