研究課題/領域番号 |
24501315
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
水谷 昭文 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50598331)
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研究分担者 |
妹尾 昌治 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (90243493)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / ニッチ |
研究概要 |
当研究室でiPS細胞より作製したがん幹細胞モデル細胞を利用して、がん幹細胞の生育を効果的に阻害しうる薬剤のスクリーニングに着手した。薬剤は文部科学省新学術領域研究「がん研究の特性等を踏まえた支援活動」化学療法基盤支援活動より標準阻害剤キット1、2を入手し使用した。 スクリーニング系の確立の為、まず、がん幹細胞自体の培養方法の再検討を行ったところ、がん幹細胞の自己複製を示すスフェロイド培養は、がん幹細胞、及びそこより分化した細胞(血管内皮細胞)を含む細胞集団より分泌される因子により、促進されることが明らかになった。さらに、がん幹細胞の分化の方向性自身も、分泌因子によって制御されており、真の意味でのがん幹細胞の自己複製は、分化した集団も必要であることを明らかにした。当研究に使用するiPS由来がん幹細胞は培養器中で自己複製を制御するニッチを形成していると考えた。 この結果を踏まえ、薬剤スクリーニング系には、がん幹細胞、及び分化細胞集団からの分泌因子を含む培養上精(CM)を添加し、ニッチにおける自己複製を模倣した環境で行った。 薬剤スクリーニングには、miPS-LLCcm(iPS細胞をLLC細胞培養上精でがん幹細胞化したもの)、miPS-LLCcm primary(先の細胞がマウスで形成した腫瘍から樹立したもの)、miPS-LLCcmLMT(miPS-LLCcmがマウス肺で形成した腫瘍より樹立したもの)の三種の細胞を先行して用いた。今回のスクリーニングでは薬剤濃度1uM、10uMで行った。その結果、バフィロマイシン、ダウノルビシンが比較的三種に共通して生育阻害効果が見られ、今後の解析の候補とした。 その他がん幹細胞モデル細胞に関して、マウスへ移植し、その腫瘍より細胞株の樹立に成功している。また、これらの細胞よりRNAを調整し、DNAアレイ解析の準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん幹細胞のスクリーニングにあたり、従来のがん幹細胞の自己複製の評価法であるスフェロイド培養では、がん幹細胞がおかれているニッチは想定されておらず、分化の方向性まで考慮したものではなかった。本研究ではそのニッチ(CM)を含んだ形で薬剤スクリーニング系構築の検討を行った。本年度は実際にスクリーニングを完了した細胞株は三株となったが、この三株に共通して効果を示す薬剤がいくつか見いだされ、その中でも、バフィロマイシン、ダウノルビシンが更なる検証の候補として得られている。 一方で、これまでに得ているがん幹細胞モデル細胞をマウスに移植し、形成した腫瘍より樹立した細胞株もいくつか得ており、次年度以降のスクリーニングに持ちいる準備を進めている。これらの細胞株も同様にCMを調整し、スクリーニング系添加の予備検討を開始している。 また、これら細胞株より、順次RNAを調整し、DNAアレイ解析の準備を開始している。このときも、がん幹細胞の分化の方向性を含めた自己複製を考慮し、CMを添加して培養したものよりRNAを調整している。 がん幹細胞の分化、及び自己複製はそれ自身、またはがん幹細胞より分化した細胞からのフィードバックによって制御されることを示すことができた。これにより、がん幹細胞の分化を制御する因子の同定に向けて、CMの分析を行うことを検討している。 以上の結果は、研究計画に示した初年度の計画に対し、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の、本研究の推進方策として以下に示す。 本年度作製した、がん幹細胞モデルを含め、iPS細胞からのがん幹細胞ライブラリーの充実化を行う。これは、種々の特徴を示すがん幹細胞を対象とした、薬剤スクリーニング、及び遺伝子発現プロファイルの作製を行うことにより、より幅広く適応可能な薬剤や、細胞株に特異的に効果を示す薬剤を見いだすことが重要であると考えられる為である。薬剤のスクリーニングには本年度構築した、ニッチ(CM)を含んだ状態で遂行する。薬剤は、本年度同様文部科学省新学術領域研究「がん研究の特性等を踏まえた支援活動」化学療法基盤支援活動、標準阻害剤キット1、2を用いる他、本年度候補に挙げたバフィロマイシン、ダウノルビシンに関しては、より詳細な薬理作用の検討を行う。 がん幹細胞の遺伝子発現プロファイリング作製では、上述の様にニッチを考慮した状態からRNAを抽出し、cDNA合成を行う。アレイには、本研究室で作製しているカスタムアレイ(細胞表面膜タンパク質に特化したアレイ)を利用する。これは、今度の標的化DDS作製を考慮したものであり、がん幹細胞に特異的な細胞表面マーカーの検出もかねている。 がん幹細胞分化、自己複製制御因子の同定向けて、がん幹細胞の培養上精の分析を種々のカラムクロマトグラフィーを利用した生化学的手法により行う。この因子の同定は、その分子を標的とするがん治療薬の開発に大きく貢献するものと考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降は、更なるがん幹細胞ライブラリーの充実化、DNAアレイ解析によるがん幹細胞の遺伝子発現プロファイルの作製、及びがん幹細胞を標的とする薬剤送達システム(DDS)の開発に着手するため、細胞培養培地、培地添加物、その他細胞培養関連のプラスチック消耗品、RNA抽出、RT-PCR等、分子生物学的解析用の試薬、キット等の購入が中心となる。また、がん幹細胞の自己複製、分化を制御する因子の解析の為、種々のカラム担体の購入、及び既存の分子の関与の有無に関しての検討のため、抗体の購入を計画している。 また、本年度得られた成果を、国内外での学会発表を行うための費用も計上する。
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