研究課題/領域番号 |
24501321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
出口 敦子 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10422932)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 微小環境 / 大腸癌 / 肝転移 |
研究概要 |
本研究では、大腸癌が肝転移を誘導する前段階で、転移を促進する転移前微小環境が肝臓に形成されていると考え、転移前肝臓内微小環境形成に関わる因子を探索するために、担癌マウスの転移前フェーズでの肝臓RNAを用いて、DNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、発現が顕著に変化した遺伝子群には、ケモカイン様タンパク質を含め、炎症に関わる因子が多く含まれており、癌細胞が肝臓に生着する以前の段階で、炎症反応を伴った微小環境の形成が示唆された。 まず、転移前微小環境形成に関わる候補因子の中で、ケモカイン様タンパク質に注目し、リコンビナントタンパク質の精製を行った。リコンビナントタンパク質を腹腔内に投与し、一週間後に門脈経由にて大腸癌を移植したところ、肝臓への大腸癌の生着が優位に認められた。一方、肺への癌細胞の生着はケモカイン様タンパク質の投与の有無により影響を受けなかった。よって、本ケモカイン様タンパク質の上昇が肝転移を促進する可能性を示唆した。さらに、ケモカイン様タンパク質をブロックすることにより肝転移を抑制できるかを検討することとした。ケモカイン様タンパク質に対する市販の抗体には、中和活性を保有していなかったため、リコンビナントタンパク質を精製後、ポリクローナル抗体を作成した。作成した抗体のうち、in vitroでの活性を濃度依存的に抑制する抗体を得ることができた。来年度は本抗体を担癌マウスに注入し、肝転移への影響を検討することを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は肝特異的な微小環境形成に関わる候補因子を特定し、将来的に転移癌に対する分子標的を決定づけることにある。現在までに、肝転移微小環境形成に関わる候補因子の一つとして、ケモカイン様タンパク質に注目し、リコンビナントタンパク質を用いた実験により、転移前肝臓において、ケモカイン様タンパク質による転移を促進する微小環境の存在を示唆できた。さらに、ケモカイン様タンパク質に対する中和抗体を作成することができ、次年度での解析が望まれる。並行して、肺転移前微小環境形成に関わる因子Serum amyloid A3(SAA3)によるTLR4/MD-2活性化の分子機序について、SAA3がMD-2に直接結合することを見いだした。肺を転移先として決定する分子機序について新たな知見を得ることができた。来年度以降、転移先臓器決定性の解析に有用な知見と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1. ケモカイン様タンパク質による肝転移促進能の解析 平成24年度に作成したケモカイン様タンパク質に対する中和抗体を担癌マウスに注入し、転移巣の数、大きさ、病理像を調べる。同時に、解析の際に、マウス肺の採材も行い、同様の解析を行う。さらに、ケモカイン様タンパク質もしくはケモカイン様タンパク質に対するレセプターのノックアウトマウスを用いて同様の解析を行う。ノックアウトマウスが入手困難な場合には、アテロコラーゲンを用いてin vivo にてsiRNA導入後、同所移植や脾臓や門脈経由注入法により肝転移した腫瘍数、大きさや病理像を解析する。このとき、野生型マウスに移植したものと比較対照として用いる。これらの解析により、同定された因子が転移前微小環境に関与するかを決定する。 2. ケモカイン様タンパク質の臓器特異性と転移先決定能の解析 平成24年度に解析したケモカイン様タンパク質の臓器特異性についてさらに検証する。この因子をマウス尾静脈経由にて移植した後に、肝臓内に優位に転移巣が形成されるかを同様に短時間内、長期間に肝臓や肺に局在する癌細胞数、病理像を免疫組織学的手法やフローサイトメトリーにより解析を行う。この時、すでに存在する肺転移前微小環境形成の関連因子であるSAA3を前投与後、蛍光標識した大腸癌を尾静脈経由にて移植し、肝臓と肺への癌細胞数、転移巣の大きさや病理像を調べ、臓器特異性と転移先決定能について検証する。 3. 大腸癌細胞由来の液性リガンドの同定とTLR依存性 通常培養条件下、または低酸素培養条件下や、リポポリサッカリド(LPS)存在下にて培養した大腸癌細胞の培養上清を回収し、含まれる因子を質量分析法やCytokine Arrayにより同定する。同定した候補因子に関してTLR2やTLR4のリガンドになりうるかをタンパク質相互作用解析装置(XPR)により解析を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、ケモカイン様タンパク質またはケモカイン様タンパク質に対するレセプターのノックアウトマウスを導入し、大腸癌細胞をマウス盲腸壁に移植する同所移植肝転移マウスモデルを用いて、肝臓や肺に転移した転移巣の数、原発巣の大きさや病理像など解析を行う。このとき、免疫応答細胞の存在についても検証する。さらに、転移前肝臓における間質細胞との相互作用や肝内構造変化を解析するため、免疫染色法やフローサイトメトリーにより検討する。さらに、肝内微小環境に関与する大腸癌細胞由来の液性因子の特定のため、サイトカインアレイや質量分析を行う。特定された因子がTLRsのリガンドになりうるかをNFkBルシフェラーゼレポーター細胞やXPRにより検証する。
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