研究課題/領域番号 |
24501324
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
柳沼 克幸 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 研究員 (40182307)
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キーワード | 小脳髄芽腫 / 散発性腫瘍 / 動物モデル |
研究概要 |
Medulloblastomaの散発性マウスモデルシステムを構築し、微小環境との相互作用を解析から、腫瘍進展のメカニズムを明らかにすることを目的としている。 初年度の問題点は、用いたモデルシステムにおいて、増殖が持続せず最終的な腫瘍発生まで至っていないことで、腫瘍発生過程を通しての微小環境との相互作用の把握には、まだ不充分であったことにある。そこで、 次年度では、基本となる腫瘍発生モデルシステムの完全な構築をめざした。変異細胞が小脳組織に導入される際に、その生存活性率の低下が要因と考えられたため、導入する細胞の活性低下を極力抑えるための方策として、in vitro 培養過程を省略して、小脳組織から直接に変異細胞を調整する方法を考案した。具体的には、小脳を摘出する前の個体の段階でTamoxifen処理を行ってPtc1変異を誘導し、その後摘出した小脳組織から細胞を調製してマウスの小脳に注入する方法である。結果は、注入後約1ヵ月以降から腫瘍の発生がほぼすべてのマウスで観察されることが判明し、散発性の腫瘍モデルシステムとしてはこれまでにない良好な経過を示した。ただし、この実験で発生した腫瘍には共通して特徴的な形態がみられたことから、腫瘍の周囲の微小環境との相互作用が影響している可能性が示唆された。今回、望ましいモデル実験系が構築できたことで、Ptc1アレルが野生型のホモ接合体マウスと、変異型Ptc1をもつヘテロ接合体マウスの2種類を用いて、その異なる微小環境下における小脳腫瘍形成について検討することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の腫瘍発生モデル実験では、用いた二つの方法とも、移植直後には小さな増殖巣が出現することが観察されるが、その後の進展はみられず、強いアポトーシスシグナルが検出されて腫瘍形成まで至らない現象のみが観察された。免疫組織学的な解析からは、増殖巣への免疫細胞マイクログリアの激しい侵入現象がみられて増殖阻害が起きていることが判明し、腫瘍発生過程の解析を困難にしていた。 この問題点を克服して、持続的な増殖を実現するための方策を検討した結果、次年度では、新たなモデルシステムを用いることで、腫瘍の発生まで追跡できる実験系を構築することができた。この実験手法の確立によって、腫瘍の進展過程と微小環境の相互作用の解析を加速できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
i) 新たなモデルシステムを利用して、異なる変異導入時期に調製されたPtc1変異細胞と腫瘍形成能との関係を検討する。また、小脳発生過程でのPtc1変異細胞の注入時期と腫瘍形成能との関係を明らかにする。 ii) Ptc1アレルが野生型のホモ接合体のマウスと、変異型Ptc1をもつヘテロ接合体マウスの2種類を用いて、Ptc1の異なる遺伝子型に由来する組織の微小環境が腫瘍形成に及ぼす影響を解析する。 iii) Ptc1アレルの遺伝子量(gene dorsage)が腫瘍微小環境に及ぼす効果について、増殖細胞と周辺組織細胞との間の分子生物学的相互作用を検討する。特に、マイクログリア細胞の遺伝子発現について、個体レベルまたは培養細胞系での検討を行い、微小環境を構成する分子的基盤について解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫組織学的解析のために、年度内に使用する予定であった追加分の抗体の購入と、細胞培養用の実験器具の使用予定数に変更が生じたため、若干の余剰金が発生した。 免疫組織学的解析に使用する各種試薬キットおよび各種抗体の購入費が経費の多くを占める。その他に、遺伝子発現解析のための各種プライマーの購入費用、また、神経細胞培養用の各種試薬やキット、各種培養用実験器具の購入費も必要となる。また、マウスを用いる腫瘍発生実験が不可欠なため、餌等の飼育資材、飼育実験器材等の購入が必要である。
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