研究課題/領域番号 |
24501325
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
杉谷 善信 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 研究員 (80360569)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経前駆細胞 / 神経分化 / ニューロン / 小脳腫瘍 / 小脳髄芽腫 / shhシグナル / in vivo エレクトロポレーション / ノックアウトマウス |
研究概要 |
<目的・方法> 脳腫瘍には治療標的となりうる癌幹細胞は存在するのか?治療標的として癌幹細胞を考える際、癌幹細胞を頂点とした癌細胞の階層性が前提条件となる。しかし現状では、この階層性は愚か脳腫瘍を構成する癌細胞の多様性・種類すら不明である。そこで本年度は、Ptc1へテロマウスに発生する小脳髄芽腫をモデルシステムとして、癌細胞の多様性と階層性の有無を明らかにすべく、免疫組織学的(IHC)解析ならびに分子遺伝学的に散発性蛍光標識した癌細胞の3D形態(3D-CM)解析を行った。 <結果> 小脳髄芽腫の起始細胞である顆粒前駆細胞および顆粒神経細胞、ならびにBrdUと各種細胞増殖マーカーを用いたIHC解析の結果、小脳髄芽腫ではニューロン新生が生じており、増殖マーカー陰性・ニューロンマーカー陽性の細胞を含む様々な分化度の細胞で構成されるヘテロな細胞集団であることを明らかにした。 次に未分化顆粒前駆細胞マーカーAtoh1陽性の小脳髄芽腫細胞をCre/loxシステムを用いて低濃度タモキシフェン投与によって散発性に恒久的GFP標識を行い、その髄芽腫細胞さらに娘細胞について経時的に3D-CM解析を行った。その結果、GFP標識直後においては双極性および単極性形態の細胞がドミナントであり、その細胞形態は胎生期あるいは生後の正常な顆粒前駆細胞とよく酷似していることが明らかになった。また少数ながら多極性の大型細胞の存在も認めた。GFP標識120時間後には、GFP標識クローン内の一部の娘細胞が、顆粒細胞ニューロンと似た未熟型dendrite構造を有するニューロン様細胞となることを明らかにした。以上の結果はIHC解析の結果とよく一致しており、小脳髄芽腫では少なくとも一部の髄芽腫細胞が、正常の小脳顆粒細胞の発生とよく似た分化シークエンスをとることによって、癌細胞の多様性・階層性を形成していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
導入したCreERT2発現マウスの遺伝的背景の影響により、想定していなかった小脳髄芽腫の発生率の低下ならびに神経症状の出現遅延が生じたため、平成24年度3月頃より予定していた「小脳髄芽腫細胞の分子生物学的多様性」に関する解析を開始することができず、この解析に関する試薬類の購入費は一部次年度へ繰り越すこととなった。しかしながら当初の主たる達成目標、「小脳腫瘍細胞の細胞学的多様性の有無とその階層性」については、最終的には良好に解析データを得ることができた。また本研究の3D-CM解析により、この小脳腫瘍細胞の多様性と階層性は、少なくても部分的には、正常の小脳顆粒細胞の発生とよく似た分化シークエンスにより形成されうるデータも得られた。さらに、この知見に基づいて本研究代表者の一連の研究(平成22-23年度 挑戦的萌芽研究 「miRNAの迅速かつ安価なin vivo解析技術の開発と脳腫瘍への応用」)から、本研究代表者が同定したmiRNAがこの小脳腫瘍細胞の分化にも関与しうるという予備的知見も得られており、本研究はおおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回の組織化学的および細胞形態学的解析で得られた知見について、より詳細に組織学的、細胞学的解析を推し進めるとともに、分子生物学的手法を用いて、具体的にはマイクロアレイおよびRT-PCR等による単一細胞発現解析、ならびにノックアウトマウスとin vivo エレクトロポレーションを組み合わせた遺伝子機能解析を中心に行うことによって、癌(幹)細胞の維持と分化制御の分子メカニズムを明らかにする。これによって脳腫瘍の細胞多様性と階層性の分子基盤を明らかにし、脳腫瘍の分化誘導治療法の開発につながる基礎的知見の獲得をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用は主に以下の3つである。 1)マイクロアレイおよびRT-PCR等による単一細胞発現解析、in vivo エレクトロポレーションのためのベクター作製、ノックアウトマウスの飼育および組織解析に必要な試薬の購入。 2)がん関連学会のみならず、分子生物学およびニューロサイエンス関連の国内外の学会に出席し、本研究の遂行に必要な知見と研究材料の情報収集を行う(学会参加費)。 3)得られた知見を随時論文発表するための英文校正費。
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