研究課題
小脳腫瘍(髄芽腫)には治療標的となりうる癌幹細胞は存在するのか?治療標的としての癌幹細胞を考える際、癌幹細胞を頂点とした癌細胞の階層性が前提条件となる。しかし現状では、この階層性は愚か小脳髄芽腫を構成する癌細胞の多様性・種類すら不明である。そこで小脳腫瘍細胞の多様性と階層性を明らかにすべく、昨年から本年度にかけてPtc1へテロマウスに発生する小脳髄芽腫をモデルシステムとして、タモキシフェン誘導型Cre/loxPシステムを用いて小脳髄芽腫内の癌細胞を膜移行型EGFPよる分子遺伝学的標識を行い、免疫組織学的解析によって癌細胞の形態学多様性と細胞系譜についての解析を行った。その結果、小脳髄芽腫においては少なくとも一部のがん細胞は、起始細胞である小脳顆粒前駆細胞の発生・分化シークエンスと良く似た分化パターンをとることによって癌細胞の多様性・階層性が形成されることが示された。この新知見に基づいて、本年度は研究代表者の一連の研究(平成22-23年度挑戦的萌芽研究『miRNAの迅速かつ安価なin vivo解析技術の開発と脳腫瘍への応用』)により明らかにしたmiRNA(髄芽腫前がん細胞が癌への進展するかあるいは神経分化するのかの運命決定に関わるmiRNA)に着目して、髄芽腫におけるmiRNAの発現様式とニューロン新生様式を解析した。その結果、多くの髄芽腫検体においてmiRNAの部分的な発現が認められ、その発現様式は髄芽腫内のニューロン新生のパターンと酷似することが明らかとなった。すなわち同定したmiRNAは前がん病変のみならず癌細胞の分化誘導・増殖停止に働いている可能性が示めされた。そこでさらに機能学的解析によりmiRNAによる小脳髄芽腫細胞の分化誘導能を確かめるべく、小脳髄芽腫細胞株の樹立を行い、miRNAの機能解析に向けて現在その細胞性状の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度から本年度にかけて、小脳腫瘍細胞の細胞形態学多様性ならびに細胞系譜について細胞レベルのメカニズムを明らかにした。本年度はその分子機構の解明に取り組み、候補制御因子としてmiRNAを同定し、さらにmiRNAによる小脳腫瘍細胞の分化誘導能を機能解析により検証すべく髄芽腫細胞株の樹立に取り組み、現在までに細胞株樹立についても良好な結果が得られている。従っておおむね順調に本研究は進展しているものと考える。
今後は樹立した髄芽腫細胞株(スフェア培養系及び単層培養系)について性状解析を進めていくともに、同定したmiRNAによる髄芽腫細胞株の分化誘導能(細胞形態及び分化マーカーをはじめとする遺伝子発現)を解析する。また現在改良を進めているmiRNA及びmiRNA inhibitorの(誘導型)発現トランスポゾンベクターを用いて、樹立した髄芽腫細胞株の移植マウスの解析、ならびにPtc1コンデショナルノックアウトマウスへのin vivoエレクトロポレーションに応用することによってin vivoでの髄芽腫の分化誘導、退縮効果についての解析も行う予定である。
当初単一脳腫瘍細胞マイクロアレイによる発現解析によって、脳細胞の多様性の形成しうる候補因子の探索を行う予定であったが、研究代表者の研究結果からマイクロアレイを行わずとも有力な候補因子の同定を行うことができた。そのためマイクロアレイ解析は、候補因子の探索に用いるのではなく、樹立した脳腫瘍細胞株ならびにmiRNAを導入した脳腫瘍細胞株についてマイクロアレイ解析を行うことによって、候補因子の探索にではなく、同定した候補因子による作用機序の解明に用いるよう使用順序変更したためである。上述したように、主に樹立した脳腫瘍細胞株ならびにmiRNAを導入した脳腫瘍細胞株のマイクロアレイ解析に使用する予定である。その他の使用内容についてはおおむね当初の計画どおりであるが、単一脳腫瘍細胞マイクロアレイと比較し解析サンプル数が少なくなると考えられ、その差分については脳腫瘍細胞株のための培養試薬、移植マウスの購入費等の増加分およびその研究遂行のために必要な情報収集のための学会参加費等に使用する計画である。
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