研究課題
私たちは、がんから多量に分泌される乳酸によるIL-23/IL-17経路活性化やアルギナーゼ1の発現を抑制する物質として、解糖系に関わる酵素やトランスポーターに対するインヒビターを検討し、ジクロロ酢酸 (DCA)を発見した。DCAは、乳酸によるIL-23/IL-17経路の活性化やアルギナーゼ1の発現の両方を特異的に抑制した。さらに、DCAは、担がんマウスの免疫状態を改善する事を示してきた。今回、興味深い事に、乳酸によるIL-23/IL-17経路の活性化には、乳酸イオンが働いていたのに対し、アルギナーゼ1の発現誘導には、乳酸イオンと共にがん細胞から放出されるプロトン(酸)が働く事を示した。それ故、乳酸だけでなく塩酸刺激によって、アルギナーゼ1の発現誘導とともに、マクロファージをT細胞の増殖を抑制する細胞へと変化させた。DCAは、ピルビン酸脱水素酵素キナーゼのインヒビターであるが、乳酸やプロトンは、このキナーゼの活性化を促進しなかった事から、乳酸やプロトンシグナルの下流の因子に直接働いているわけではなかった。DCAは、長い間、ピルビン酸脱水素酵素異常による乳酸アシドーシスの治療薬として使用され、海外では、がんの治療薬としても臨床試験が行われているが、肝障害や発がん作用が報告されている事や、高乳酸存在下で、高濃度DCAを作用させると、他の解糖系関連のインヒビターと同様に免疫細胞の増殖を抑制する事から、さらによいターゲットを同定する必要があると考えられる。そのためには、乳酸やプロトンシグナルの分子機構やDCAによる乳酸・プロトンシグナルの抑制機構を解明する必要があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度、上記成果が、International J. Cancerに掲載され、ドイツで開かれた「Tumor metabolism meets Immunology」のシンポジウムで、日本人としてただ一人参加し、oral presenterに選ばれ、口演した。また、私たちのIL23/IL17経路に関する研究成果が認められ、IL17Aに関する総説を執筆し、掲載予定である (Atlas of Genetics and Cytogenetics in Oncology and Haematology)。 さらに、本研究成果に関し、日本語の総説を執筆し、紹介した(臨床免疫・アレルギー科)。また、私たちの研究室が目指すがん患者の免疫状態を改善する治療法の開発の1つとして、免疫アジュバント研究の論文も掲載予定となっている(International J. Cancer)。更に本研究を進展するために、現在、乳酸およびプロトンシグナルをターゲットにした治療法開発を目指し、その分子機構解明も順調に進行している。
今年度は、本研究課題の最終年度であり、本研究をさらに進めるためにも、ぜひ、乳酸及びプロトンシグナルを同定したい。それによって、より適切な免疫改善作用を誘導できる物質を同定できる可能性がある。特に、プロトンシグナルが、がんにおける免疫抑制の一旦を担っているのは明らかであり、極めて重要であると考えられる。
次年度使用額は、ごくわずかで、ほとんどの予算を使用した。平成26年度は、本研究課題最終年度でもあり、さらに研究を発展させる必要がある。そのためには、研究補助員の支援が必要不可欠である。そのため、次年度使用額を研究補助員への経費に当てる予定である。
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http://www.mc.pref.osaka.jp/omc2/category/genetics.html