研究課題
頭頸部の扁平上皮癌は以前よりタバコやアルコールの暴露が発がん要因とされてきたが、近年特に中咽頭癌ではハイリスクのヒトパピローマウイルス(HR-HPV)の関与が報告されてきている。HPV感染が関与するHPV関連癌とタバコやアルコールの暴露が関与するHPV非関連癌では、臨床的に治療感受性が異なり、HPV関連癌の方が放射線治療感受性がよいことから2つを分ける必要があるとの報告がある。HR-HPVの関与する咽頭癌の特徴を明らかにすることを目的とし中咽頭癌を中心に咽頭癌100例の収集を行った。その内2009年11月から2013年6月に治療を開始した70例の中咽頭癌を、さらに亜部位別に検索した。男性62例、女性8例。年齢中央値は62.5歳(39~89)。亜部位は、側壁41例、前壁18例、上壁7例および後壁4例で、HPV関連癌のバイオマーカーとして用いられるp16抗体を用いた免疫組織化学的検査では、陽性37例(53%)、陰性30例(43%)、部分的陽性2例、判定困難1例で、亜部位別のp16陽性は、側壁71%(29/41)、前壁39%(7/18)、上壁0%(0/7)、後壁25%(1/4)であった。喫煙歴別p16陽性率は、喫煙歴あり46%(26/56)、喫煙歴なし100%(11/11)であった。初回治療に手術を施行した32例(側壁15例、前壁10例、上壁5例、後壁2例)のp16陽性率は31%(10/32)で、化学療法併用を含む放射線治療を施行した38例(側壁26例、前壁8例、上壁2例、後壁1例)のp16陽性率は71%(27/38)であった。以上の結果から、1. 中咽頭癌の中で側壁癌はp16陽性率が高くHPV関連癌の割合が他の亜部位よりも高いことが推測される。2. 非喫煙者の中咽頭扁平上皮癌は、HPV感染が発がんの要因であることが示唆される結果であった。
2: おおむね順調に進展している
1. 咽頭癌におけるHR-HPVの関与を型別に調べると共に、HR-HPV感染が関与する咽頭癌の特徴を明らかにすることを目的としているが、予定どおり100例の収集が完了しHPV型別解析、臨床病理学的および組織病理学的解析を約8割まで終了し、ほぼ計画どおり進展している。さらにその内の70例を亜部位別に解析したが、亜部位別解析結果は、他に類をみない成果がえられた。2. HR-HPV感染が関与する子宮頸部の前がん病変および癌で特異的に出現する特徴的な形態を呈する異常核分裂像を発見し、傍中心体異所性染色体(Ectopic chromosome around centrosome:ECAC)と命名したが、ECACは、中咽頭でもHPV関連癌のみに出現することを前年度の40例で中間報告した。最終目標である100例でさらに解析中であるが、ECACは臓器を越えてHR-HPVが関与する前がん病変および癌で特異的に出現する現象であり、HPV関連癌のバイオマーカーをして有用であることを明らかにしつつある。ECACの出現機序と意義を検討するために、手術で摘出されたHR-HPV関連癌を三次元初期培養およびスライドガラスに二次元初期培養し、ECACが多数出現する系の作製を試みている。一方では、固定状態の良い病理組織標本を用いて、0.7μmの微小なECACをFISH法を用いて解析中であり、概ね予定どおり進展している。
1.咽頭癌におけるHR-HPVの関与を型別に調べると共に、HR-HPV感染が関与する咽頭癌の特徴を明らかにすることについては、既に目標とした咽頭癌100例の収集は完了し、HPV型別解析、臨床病理学的および組織病理学的解析を計画どおり遂行する。2.ECACの本態の解明には、ECACが多数出現した固定状態の良い咽頭癌および子宮頸部前がん病変および癌の病理組織標本を選びFISH法で、特定の染色体であるか検討する。ECACの動態は、発がん機構との関連においても興味深い。HPV DNAの一部が組み込まれセルライン化した培養細胞では、ECACの出現頻度が臨床検体よりも低く、動的な解析が困難であることから、臨床検体の初期培養細胞系での検索を試みる。
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