研究課題
基盤研究(C)
ドキシサイクリン存在下でオートファジー関連遺伝子を安定的に発現抑制できる細胞株の樹立のために、ATG7, BECN1 shRNAが組み込まれている Biosettia社のpLV RNAi systemの発現カセットを利用した。樹立細胞株についてはHCT116を選択したが、セレクションマーカーの一つであるGFP, RFPの発現が目視レベルで困難であった。これらはIRES配列下での発現制御を受けるため、工夫の余地が必要であると考えられた。同時に行った予備実験としてin vitroでの血管新生阻害剤投与状態を代用するものとして、飢餓状態、CDK阻害剤投与状態でのオートファジー誘導能の変化とオートファジー阻害(ATG5, BECN1 siRNAまたはクロロキンを使用)による細胞状態の発現状況について確認実験を行った。培養細胞株はBT474、MCF7、MDA-MB231、MDA-MB435S、SKBr3、(いずれもヒト乳癌細胞株)、A431(ヒト肺癌細胞株)、NCI-N87(ヒト胃癌細胞株)、SW480(ヒト大腸癌細胞株)、KMST-6(ヒト線維芽細胞株)を用いた。その結果、飢餓状態に置いた場合、すべての細胞株においてオートファジー阻害は細胞にアポトーシスを誘導したが、CDK阻害剤においてはオートファジー阻害は一部の細胞株にのみアポトーシスを引き起こすことが明らかになった。これら細胞株におけるアポトーシス誘導能の違いは、オートファジー誘導能の違いに起因し、CDK阻害剤でオートファジーが誘導される細胞株についてはオートファジーが細胞生存に寄与することが明らかになった。このことは、今後予定しているマウスをもちいたin vivoでの実験への展開を支持する結果と考えている。
3: やや遅れている
オートファジー関連遺伝子の発現抑制した際のオートファジー阻害剤との併用効果についてのvitroでのデータは順調に収集できており、予備データとして国内外学会で発表をしている。当初の予想通り、vitroでの血管新生阻害疑似条件下でのオートファジー阻害剤投与効果は、個々の細胞が有するオートファジー誘導能に依存することが判明したため、予定通りin vivoでの実験に着手する予定である。しかし安定的オートファジー関連遺伝子発現抑制細胞株の樹立の進捗がやや遅れている。蛍光蛋白質(GFP, RFP)の発現を目視で確認する予定であったが、IRES配列を用いているためか発現が弱く困難であることが一因であると思われる。またHCT116細胞株特有の問題も考えられたため、今後他の細胞株も用いて検討する予定である。また当初レトロウィルスを用いることは予定していなかったが、今後はlentivirusを用いて安定的オートファジー関連遺伝子発現抑制細胞株の樹立を急ぐ予定である。lentivirusのパッケージングおよび感染効率は確認されたため、今後樹立が確認されたらマウス実験に取り掛かる予定である。
安定的オートファジー関連遺伝子発現抑制細胞株の樹立が確認されたら、同所移植自然転移モデルマウスを作成し、転移能の差異についての検討を行う。さらに血管新生阻害剤、オートファジー阻害剤の投与による転移発生能の変化について解析を行う。1.ヒト大腸癌同所移植自然転移モデルマウスの作成トリプシンで処理した培養細胞を適切な無添加培養液に移したのち、マトリゲルと等量で混合し大腸癌細胞浮遊マトリゲル液を作成する。調整した大腸癌細胞浮遊マトリゲル液については、親株とオートファジー関連遺伝子抑制細胞株を混合して移植に用いる。親株とオートファジー関連遺伝子抑制細胞株は、あらかじめ蛍光蛋白質(GFPまたはDsRed)により標識しておくため、転移形成後もこれら蛋白質の発現の違いで、由来細胞を追跡することができる。蛍光蛋白質を利用する理由としては、屠殺するマウスの数を極力減らすためと、実験手技に由来する転移形成能の違いをなるべく排除するためである。これら大腸癌細胞浮遊マトリゲル液は、全身麻酔下のヌードマウスの下腹部正中から体外に露出させた盲腸壁に注射針を用いて移植注入する。2.ヒト大腸癌同所移植自然転移モデルマウスの転移巣の観察研究移植後6-8 週間を目安に屠殺し、腹腔内の転移巣について、転移部位、転移個数、腫瘍径などについて観察する。最初の仮定に反し細胞株ごとの違いが見られないケースも想定して、転移部位の腫瘍細胞を採取、樹立化を試み、オートファジー関連事象に関するデータを収集し、移植前細胞のキャラクターとの違いを確認する。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額と合わせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。特に、マウス実験に関しては、同所移植モデルマウスを用いる予定であったが、上記のごとくHCT116においては細胞樹立がうまくいかない可能性があること、手技的には習熟度が必要であること、も考え合わせると、途中より皮下移植モデルも視野において研究を進めていく事も考えておかなければならないため、平成25年度の研究費として繰り越し分は有効に使用する。
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