研究課題
基盤研究(C)
悪性胸膜中皮腫は胸膜の中皮細胞に由来する悪性腫瘍で、過去に職場や日常生活においてアスベストに暴露し、現在悪性胸膜中皮腫に罹患している患者は増加の一方であり、診断時にすでに広範囲に進展し根治手術が不可能であることが多く、化学療法のみでの治療の場合ペメトレキセドとシスプラチンの併用である程度の効果をあげているものの有効とは言えず、予後はきわめて不良である。そこで申請者がこれまで培ってきたプロテオミクスの技術を駆使して治療の標的となるタンパクを同定し、標的タンパクに照準を合わせた治療法の開発を目的とする。具体的には、これまでのプロテオーム解析より感度の良い中皮腫特異的タンパクの同定を行い、また細胞株のみではなく外科的腫瘍切除の際に入手できる悪性中皮腫組織と周辺の正常組織の比較プロテオーム解析を行い、その特異的タンパクの制御法を(例えば文献的に報告されていれば阻害剤や抗体)用いて、青アスベストの腹腔内投与で実験的にマウスに発癌させた悪性中皮腫に対しての治療実験を行う予定である。プロテオーム解析の結果、正常胸膜中皮細胞と比較して、HSP70、GRP78、Peroxiredoxin 2などのべ7種の蛋白質の発現が悪性胸膜中皮腫細胞で増強していることが明らかとなった。このことは、2013年5月に開催される欧州胸部腫瘍学会にて発表予定である。また、特異抗体を用いたウェスタンブロット解析によりDDX39の発現増強も明らかとなった。その発現は有意差を持って増強していたので悪性胸膜中皮腫の特異的蛋白質の一つとして期待している。このことは、Anticancer Research誌に投稿し既に受理されており、ただ今in pressの状態である。
3: やや遅れている
質量分析計の調子が悪く、二次元電気泳動による蛋白質スポット発現の解析が予定通りに終了していたにもかかわらず、質量分析に時間がかかってしまったのが遅れの原因である。とは言え、研究計画のうち、悪性胸膜中皮腫細胞株3株と正常胸膜中皮細胞株を用いてのプロテオーム解析は一段落しており、いくつかの悪性胸膜中皮腫特異的蛋白質の候補が同定できている。また、5月にはルガノで開催される欧州胸部腫瘍学会での発表を予定している。また、10月に横浜で開催されるHUPO(Human Proteome Organization)世界大会での発表も予定している。しかしながら、特異抗体を用いての確認作業までは終了しておらず、また、ノックダウンによる機能実験にも着手できていない。さらに、これまで用いた細胞株以上に細胞株を入手、使用してのプロテオーム解析も必要である。今後は、ますますのプロテオーム解析への集中が必要となってくる。
まず、さらなる数の悪性胸膜中皮腫細胞株を入手してのプロテオーム解析を行う。その結果とこれまでのプロテオーム解析の結果を統合して、悪性胸膜中皮腫細胞に特異的な蛋白質を同定する予定である。そのためには、二次元電気泳動解析の感度を上げる必要がある。悪性胸膜中皮腫の組織摘出手術の患者からの組織サンプルを用いてのプロテオーム解析ならびに、細胞株でのプロテオーム解析結果の確認を行う。しかしながら、研究分担者が当院で行う予定の悪性胸膜中皮腫摘出術は今のところ予定されておらず、どれだけのサンプルを入手できるかは不明である。in vivoでの悪性胸膜中皮腫組織のプロテオーム解析を行うためにC57BL/6マウスへの青アスベスト腹腔内投与によって悪性中皮種を実験的に発癌させる予定である。これまでに同定された悪性胸膜中皮腫特異的蛋白質が治療のターゲットとなりうるかの確認のためにsiRNAを用いてのノックダウン実験が必要となってくるので、準備したい。
前年度、当初予定していたプロテオーム解析による悪性胸膜中皮腫特異的蛋白質同定の予定が、質量分析計の調子が悪く蛋白質同定の進み方が遅いため332,461円の残高が生じた。この繰越金額は、質量分析計不調のために遅れているプロテオーム解析のための消耗品に充てる予定である。具体的には、(1)質量分析のための試薬類(アセトニトリル、超純水、トリプシン、ネブライザー等)と(2)特異抗体である。次年度は、プロテオーム解析推進のために、(1)二次元電気泳動試薬類、(2)二次元電気泳動プレキャストゲル、(3)等電点電気泳動用のIPGストリップ、 (4)質量分析のための試薬類(アセトニトリル、超純水、トリプシン、ネブライザー等)を購入予定である。悪性胸膜中皮腫特異的蛋白質同定のために(5)特異抗体が必要である。また、同定された蛋白質の標的分子となる可能性確認のためにsiRNA類のノックダウン試薬が必要となる。 in vivoでの悪性胸膜中皮腫解析のための(6)動物購入が必要となる。(7)5月にルガノで開催される欧州胸部腫瘍学会での発表用の旅費。(8)10月に横浜で開催されるHUPO(Human Proteome Organization)世界大会発表用の旅費など、学会発表用の旅費が必要となる。研究成果報告のための国際医学系学術誌への投稿費用も必要となってくる。今のところ、Anticancer Research誌への掲載が既に決まっている。
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Anticancer Research
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Journal of Plant Interactions
巻: 33 ページ: 153-160
Folia Histochemica et Cytobiologica
巻: 50 ページ: 368-374