研究概要 |
日本において胃がんはがん関連死における主要な原因のひとつであり、予後の改善のための新規薬剤の改善が期待されている。そのためには薬剤開発の標的となる分子の同定が不可欠である。本研究においてはペプチドマイクロアレイという手法を用いて、腫瘍組織におけるチロシンキナーゼおよびセリン・スレオニンキナーゼの活性を測定することで、新規治療標的の同定を行うことを目指している。本年度は以下の研究成果を得た。 1. スキルス胃がんの分子生物学的特性を探索する目的で、従来よりも規模を拡大した細胞株パネルでの検討を実施した。11種類のスキルス胃がん細胞株および25種類の非スキルス胃がん細胞株においてペプチドマイクロアレイを用いて、網羅的チロシンキナーゼ活性の測定を行い、スキルス胃がんと非スキルス胃がんにおけるチロシンキナーゼ活性プロファイリングにおける差異を解析した。EGFR, ERBB2, 3, 4, EPHAs, FAK, IGF1R, INSR, MAP2Ks, RETおよびSRC等におけるキナーゼ活性がスキルス胃がんと非スキルス胃がんにおいて有意に異なるデータを得た。 2. スキルス胃がんと非スキルス胃がんの合計25細胞株において、がん関連遺伝子変異プロファイルを明らかにした。この遺伝子変異情報を元に、プチドマイクロアレイを用いたチロシンキナーゼ活性プロファイリングによるシグナル伝達経路解析のモデルを構築した。25細胞株中、MET遺伝子増幅を認める4細胞株について、ペプチドマイクロアレイを用いたチロシンキナーゼ活性プロファイリングにて、他のMET遺伝子増幅を認めない細胞株から有意に区別することが可能であった。本研究結果からペプチドマイクロアレイを用いたチロシンキナーゼ活性プロファイリングにより特定の遺伝子異常を持つ腫瘍を特異的に検出および同定できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 11種類のスキルス胃がん細胞株および25種類の非スキルス胃がん細胞株からなる25種の胃がん細胞株を用いて、チロシンキナーゼおよびセリン・スレオニンキナーゼ活性プロファイルの比較を行い、スキルス胃がんおよび非スキルス胃がんにおいて特異的に活性化されているシグナル伝達経路の同定を行った。特にsignet ring cellタイプにおいては、EGFR, ERBB2, 3, 4, EPHAs, FAK, IGF1R, INSR, MAP2Ks, RETおよびSRC等におけるキナーゼ活性がスキルス胃がんと非スキルス胃がんにおいて有意に異なるデータを得た。肺腺がん細胞株を用いての検討を並行して開始しており、EGFR遺伝子変異を持つ肺腺がん細胞株を中心にチロシンキナーゼ活性の評価を行っている。 2. チロシンキナーゼを標的とした分子標的治療における効果予測モデルを構築するため、EGFR、HER2、VEGFR、FGFR、c-Kit、Ret、Raf等に対するチロシンキナーゼ阻害剤およびAkt、MEK,Aurora A等に対するセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤を用いての効果予測バイオマーカーの検討を開始した。各キナーゼ阻害剤への感受性(増殖抑制効果)の評価を終了しており、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブ、スニチニブおよびパゾパニブについては、ペプチドマイクロアレイを用いての各阻害剤による各種キナーゼの阻害レベルの評価を行った。今後は薬剤感受性と酵素活性阻害プロファイルの結果を解析し、各阻害剤による治療での効果予測バイオマーカーと成り得る特定のキナーゼもしくはシグナル伝達経路の同定を行う。 3. 臨床検体を用いての新規治療標的同定のための統合解析に次世代シークエンサーの利用が不可欠である。本年度より運用を開始し、細胞株および臨床検体におけるディープシークエンスが可能な状況となっている。
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