研究課題/領域番号 |
24501363
|
研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
洪 泰浩 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (80426519)
|
キーワード | 分子標的治療 / チロシンキナーゼ / スキルス胃がん / 肺がん |
研究概要 |
本研究においてはタンパク質レベルでのキナーゼ活性に着目し、ペプチドマイクロアレイという技術を用いて、腫瘍組織におけるチロシンキナーゼ活性を測定することで、新規治療標的および効果予測バイオマーカーの同定を行うことを目指している。以下に本年度の成果を述べる。 1. スキルス胃がん11細胞株と非スキルス胃がん14細胞株におけるチロシンキナーゼ活性の違いについて、新規の統計解析手法を用いて詳細に解析を行い、スキルス胃がんに特異的なキナーゼ活性プロファイルを同定した。スキルス胃がんの診断および治療標的の同定につながる可能性があり、その成果について米国癌学会にて発表を行った。 2. 薬物療法における効果予測バイオマーカー同定のためのモデル試験として、変異型EGFRを持つ5つの肺癌細胞株と野生型EGFRを持つ3つの肺癌細胞株を用いて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3剤で処理した時のチロシンキナーゼ活性プロファイリング変化を観察した。これら3剤は同じクラスの薬剤であるが、今回の前臨床モデルで、キナーゼ阻害プロファイルに大きな違いがあることが分かり、その成果については来年度の米国癌学会にて発表予定である。 3. 小細胞肺がんの手術切除検体を利用したチロシンキナーゼ活性の評価を開始した。手術切除後に新鮮凍結処理を行った腫瘍組織と正常組織から抽出したタンパク質を用いて、ペプチドマイクロアレイによるチロシンキナーゼ活性測定プロファイリングを開始した。腫瘍組織と正常組織におけるキナーゼ活性の違いに加えて、それぞれに小細胞肺がんにおける治療薬であるシスプラチン、エトポシドを添加した時のキナーゼ活性の変化を観察することに加え、探索的にSrc阻害剤であるdasatinib添加時のキナーゼ活性の変化を観察することとしている。本研究からの成果として、小細胞肺癌における新規の治療標的同定が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 統計学的手法であるorthogonal partial least square-discriminant analysis (OPLS-DA)法にて、胃がんの中でも特に細胞診にてsignet ring cellと診断されるタイプにおいては、EGFR、ERBB2、EPHAs、FAK、IGF1R、INSR、MAP2K、RETおよびSRCのチロシンキナーゼ活性の違いが、スキルス胃がんと非スキルス胃がんの診断において優位な因子となる可能性があることが示唆された。 2. 上記25種の胃がん細胞株において、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブ、スニチニブおよびパゾパニブの検討を行い、高感受性細胞株においては確かにFGFR2の高発現およびリン酸化が亢進していることを確認した。FGFR2の高発現および活性化状態が上記のマルチキナーゼ阻害剤での治療における効果予測バイオマーカーとなり得ることが示唆された。 3. 変異型EGFRを持つ5つの肺癌細胞株と野生型EGFR持つ3つの肺癌細胞株を用いて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの効果の違いを規定するバイオマーカーをチロシンキナーゼ活性に基づいて同定する取り組みを開始した。EGFR-TKIの高感受性細胞株においてはRAF, ERK1/2 and MAKP7といったキナーゼの活性上昇が認められ、これらのキナーゼ活性がEGFR-TKIの感受性予測バイオマーカーとなる可能性が示唆された。 4. 本研究におけるキナーゼ活性データとの統合解析に必要な遺伝子変異データを取得するための次世代シークエンサーの運用を本格的に開始し、細胞株および臨床検体におけるディープシークエンスが可能な状況となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の成果として、昨年度中に実施した細胞株を用いてのキナーゼ活性測定データを用いて、統計学的処理を含めたデータ解析を実施し、スキルス胃がんおよび非小細胞肺がんにおける効果予測および診断用バイオマーカーとなり得るキナーゼ活性プロファイルを得ることができた。これらの手法により取得した前臨床データを基に、来年度以降は臨床検体での検討を中心に行う予定である。すでに小細胞肺がんの腫瘍および正常組織を用いてのキナーゼ活性の測定を開始しており、これを利用して新規の治療標的の同定を含むバイオマーカーの同定を目指している。 加えて、腫瘍組織から抽出したDNAを用いて、がん関連遺伝子における遺伝子変異の検出について、ホットスポット領域を中心とした次世代シーケンサーによるターゲッテッドシークエンシングでの検討を行う予定であり、これらの遺伝子変異情報との統合解析を進めることを予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じた理由として、当初の予定より臨床検体を用いての測定が遅れたためにマイクロアレイチップや試薬の使用量が予想より少なくなったことが原因として考えられる。しかし、現在すでに臨床検体を用いての検討を開始しており、当初の予定通り研究を遂行できる見込みである。 次年度においては、臨床検体での測定を進めるために当該助成金が必要である。加えて、次世代シークエンサーの活用を含めた臨床検体での測定および解析に研究費を使用する予定である。
|