研究課題/領域番号 |
24510001
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
豊田 威信 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)
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研究分担者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 極地 / 海氷 / 波ー海氷相互作用 / 氷盤の大きさ分布 / 気候変動 |
研究概要 |
今年度は当初の計画通り(1)南極氷縁域で現場データの取得に重点的に取り組んだほか、(2)波―海氷相互作用の数値モデルの開発、(3)論文の執筆などを行った。(1)に関しては2012年9月-11月にかけて研究代表者および研究協力者Dr. Kohout(NZ)がオーストラリアの研究観測船に乗って東南極域で波のエネルギー分布、氷盤の大きさ分布、それに氷厚分布の現場観測を行った。波のエネルギー分布を計測するためにNZ側が用意した8つの加速度計を氷縁から海氷内部領域にかけて約200kmの範囲で航海途上の代表的な氷盤の上にヘリコプターや船のクレーンを用いて設置した。この内4つは設置後途中で通信不能となったものの、残り4つの地点におけるデータが得られ、外洋から入射する波のエネルギーが氷縁域で減衰する様子などを捉えることに成功した。一方、氷盤の大きさ分布に関しては、当初予定していたヘリコプターによるビデオモニタリング観測は、悪天候などのため計画通りには実現できなかった。その代替として、船のアッパーデッキに設置したモニタリング用カメラを用いて一分間隔で取得したデータを解析に用いる予定である。氷厚に関してはビデオシステムによりデータが取得でき、解析もほぼ終了した。(2)に関しては、研究分担者(三寺)は研究協力者のモデルとは独立に波―海氷分布の相互作用の研究に取り組み、表面波の伝搬による直接的な影響の他に内部波による鉛直循環の重要性を明らかにするなど、今後の研究に有用な結果を出すことができた。(3)に関しては、波―海氷相互作用で有用な情報となる氷盤の成長履歴について酸素安定同位体比を用いて求めるための手法を実験および観測から論文としてまとめた。以上のように、氷縁域における氷盤分布のデータが当初の計画通りには取得できなかった点を除けばその他はほぼ計画通り遂行できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は氷縁域における現場観測から得られたデータを基に、データ解析およびその結果に基づく数値計算により波―氷盤形成の相互作用の実態を明らかにしようというものである。今年度は現場観測を遂行して基礎データを取得する重要な年であった。観測が実施できたという意味においては、当初の予定をおおむね順調に達成したと言える。 しかしながら、研究実績の概要で記述した通り、現場観測で天候や船の事情の都合により、氷縁域におけるヘリコプター搭載のビデオモニタリング観測が実現できなかった点は残念であった。とりあえず、代替として船のアッパーデッキに設置したモニタリングカメラにより一分間間隔で撮影した画像をおおよその氷盤分布を知るための参考データとして用いる予定であるが、斜視画像であるため定量解析には向いているとは言い難い。また、加速度計を設置した氷盤は設置後はるか東方に流されたため、波のエネルギー分布と氷盤の大きさ分布を直接比較することは難しい。このため、今後の研究計画には当初の予定から多少修正が必要とされる状況である。ただ、ヘリコプターによる氷盤分布のビデオモニタリング観測は氷縁域でこそ実現できなかったものの、内部領域では数回実施できたので氷盤を構成している個々の氷盤の大きさ分布という観点から解析を行うことは可能と考えられる。また、航跡に沿った氷厚分布と大よその氷盤の大きさはデータが取得されたので、波―氷盤相互作用の数値モデルの研究は可能であり、研究協力者(Dr. Kohout)と連絡を取り合いながら観測された波エネルギー分布を如何に再現するかという観点から研究を進めてゆきたいと考えている。加えて、航海中の氷上観測から、風が氷盤の破砕に及ぼす影響が見出されたので、今後は波に加えて風の影響についても調べる計画である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度の項目で記述した通り、今後研究の方向性を若干修正する必要も踏まえつつ、第二年度は当初の計画通り主として取得した観測データの解析に時間を費やす予定である。初年度に取得した現場データの解析を進め、波エネルギーの伝播特性、氷盤の大きさや氷厚の分布特性を明らかにすることを目標とする。波エネルギーの伝搬特性の解析においては、氷縁からの距離に応じて波のエネルギースペクトルがどのように変化しているのかに焦点を当てる。すなわち、波長が長い波と短い波で海氷域内の伝搬特性にどのような相違が認められるかに着目し、従来の理論の検証を行う。 一方、氷盤の大きさ分布の解析においては、初年度に購入した画像解析ソフトを用いて以下の点に着目しながら作業を進める: (1) 内部領域の氷盤を形成する小さな氷盤の分布の特性にも従来提唱されてきたようなフラクタルの特徴が見られるか、 (2) 分布特性は航海期間中に時間的にどのように推移するか、(3)風速分布が氷盤の分布特性に及ぼす影響。特に(1)と(2)は以前に研究代表者が提唱した氷盤破砕確率(fragility)による氷盤形成過程の仮説にも関わっているため、本研究において重要な位置づけと考えられる。(3)は方向性の修正に伴う新たな試みでありMODISなどの衛星画像や室内実験により行う予定。これらの解析結果を波エネルギーおよび氷厚分布特性と比較することにより、波が氷盤を破砕して氷盤の分布を形成する過程の本質を明らかにすることを目指す。データ解析は研究代表者と研究協力者(Kohout)が中心となって行う。 また、解析作業と並行して数値モデルの開発も引き続き行う。モデルの開発は研究協力者(Meylan, Kohout)と分担者(三寺)が中心となって行う。研究成果の打ち合わせを行うために一度渡航して研究協力者と交流する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の方向性の修正に伴い実施予定の室内実験で必要な機材を購入した。機材の納品が平成24年3月19日になってしまったこと、それに3月に雇用した研究補助の謝金のため、平成24年度の予算の内504,200円が平成25年度に持ち越すこととなった。しかし支払いは平成25年4月に行われており実質的な持ち越し額はゼロである。そのため、研究費の使用計画は交付申請書に記した当初の計画とほとんど変更はない。
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