今年度は当初の予定の(1)南極観測で得られた氷盤分布の解析結果を論文にまとめる作業、(2)波―海氷相互作用の数値モデルの吟味に加え、(3)南極海氷域において海氷上の積雪深と氷盤分布との関連性についての解析を行った。 (1)については、昨年度の実績報告書で記した内容に基づき、波―海氷相互作用は氷縁域の氷盤分布を新たに創造するというよりも、むしろ内部領域に既に存在する氷盤分布を変調する役割があることを間接的に示した点に焦点を当てて執筆した(論文改訂中)。(2)については、氷盤形成に重要な波の氷盤破壊過程をどのようにモデルに取り入れるかという観点から研究協力者(Kohout)と検討した。手法は南極観測中に遭遇した3度の大波によって発生した破砕現象時の波エネルギーを解析して現モデルで用いられている理論の検証を行った。その結果、破砕を起こす臨界ひずみ値は特に長波長の波による破砕を過小評価することが示された(論文改訂中)。一方、内部波によって生じる特徴的な海氷分布パターンに関しては論文改訂中である。(3)については、氷盤分布の影響を多角的に知るために取り組んだ。初年度の南極航海の氷況の特徴は、従来の観測結果と比較して顕著に厚い氷厚と積雪深であった。そこで過去23年間の気象再解析データを用いて海氷域の降雪量の年々変動の実態を解析した結果、この年の降雪量は他年と有意な違いはなく、むしろ氷厚の増大に伴い雪ごおりの生成が制限されたこと、それに氷盤からリードに消失する雪が少なかったことが異常積雪深の主因であった可能性が高く、氷盤分布が海氷上の積雪深にも有意に影響を及ぼすことが示唆された(論文執筆中)。 以上、観測の変更に伴い研究計画を修正する必要が生じたものの、氷縁域で波による氷盤分布形成において海氷内部領域の役割の重要性が示されるなど本研究課題に関わる有意義な成果が得られたと考えている。
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