研究課題/領域番号 |
24510004
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上原 裕樹 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (90374892)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / ベーリング海 / 北太平洋亜寒帯 / 北極海 / 気候変動 / 観測データ解析 / 数値モデル実験 |
研究概要 |
本年度は, 1.ベーリング海・オホーツク海の海洋観測データセットの整備(品質管理など)と気候値(=長期間の平均状態を表す値)の作成, および2.オホーツク海で形成される高密度陸棚水の経年変動に与えるベーリング海からの塩輸送の影響, という2つの研究成果を得た. 1.では, ロシアの機関が収集した膨大な海洋観測データの品質管理(不良データ除去など)と, 等深度面・等密度面上と各海域に特徴的な水塊(例;オホーツク海の高密度陸棚水など)の海水特性(水温・塩分・溶存酸素など)の気候値データセットの作成を行った. 品質管理は, データ解析を用いる研究にとって必須の準備である. 気候値データセットは, ベーリング・オホーツク海を含む北太平洋亜寒帯域の海洋構造を把握するための土台である. 実際, 2.の研究において, 解析対象海域の範囲決定や対象海域間の移流時間(海流による移動時間)の評価に利用された. 2.では, データ解析から見出されたベーリング海の表層(深さ100mまで)における塩分偏差(気候値からのズレ)がオホーツク海に運ばれ, 最終的にその影響によって, 深さ約1kmに及ぶ北太平洋スケールの鉛直循環(オーバーターン)の経年変動が引き起こされることを示唆した. この塩分偏差は, 反時計周りの北太平洋亜寒帯循環に乗り, 北太平洋亜寒帯西部(日本東方沖)とアラスカ湾から, ベーリング海を経てオホーツク海に運ばれてくる. オホーツク海では, この塩分偏差によって, オーバーターンの沈み込み部分(駆動源)である高密度陸棚水の密度が変化し, その影響でオーバーターンが変動する. オーバーターンの変動は, 北太平洋の気候変動に大きな役割を果たすと考えられており, この研究によって, 気候変動に対する北太平洋亜寒帯を巡る塩分偏差の重要性が初めて明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の中心的手法である海洋観測データ解析における基礎的な準備として, ロシアデータを含む観測データの品質管理(不良データの除去など)と, ベーリング・オホーツク海を含む北太平洋亜寒帯循環域における海水特性(=水温・塩分・溶存酸素など)の気候値(=長期平均状態を示す値)データセットの構築を完了した. これらは当初の計画通り進んだ. その後, この整備された観測データの解析から, 未解明のベーリング海における気候変動の実態把握とその周辺海域への影響に関する研究を行った. ここで注目したのは, ベーリング海で見られる表層100mの塩分の経年変動が, オホーツク海へ及ぼす影響である. この表層塩分の変動はベーリング海で発生するのではなく, 北太平洋亜寒帯域を塩分偏差(気候値からのズレ)が循環することで生じていることが分かった. この塩分偏差がオホーツク海に移動し塩分場に影響することによって, 深さ約1kmに及ぶ北太平洋スケールの鉛直循環(オーバーターン)が変動する可能性があることが分かった. オーバーターンの変化は, 北太平洋における気候変動のメカニズムの解明とその予測可能性の改善という観点から非常に重要である. この新しい知見は, 当初の計画より大きく進展したと言える. 上記のデータ解析の進展が計画以上であったため, まずそれを優先して継続した. このため, 計画していた高解像度数値モデルを用いた気候変動の再現実験の着手には至らなかった. しかし, これについては今後取り組む予定である. 以上を総合すると, 本課題はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究から, 北太平洋亜寒帯循環系を巡る表層塩分の偏差(長期の平均状態からのズレ)が, ベーリング海を経てオホーツク海まで運ばれ, 最終的に深さ約1kmに及ぶ鉛直循環(オーバーターン)の変化をもたらす可能性があることが分かった. 今後は, この新たな知見に基づき, 表層塩分偏差の形成・移動において重要な役割を果たす海洋現象・メカニズムを解明する研究を進める予定である. そのため, 引き続きロシアデータを含む海洋観測データの解析を行う. また, データ解析から重要性が明らかになるであろう気候変動現象について, 高解像度数値モデルによる再現実験を行い, その結果の解析を行う予定である. 例として, 特に注目されるのは, 表層の塩分偏差が形成される海域・時期とメカニズムの解明である. 本課題におけるここまでの成果から, 形成海域の候補として, 北太平洋亜寒帯循環系西部(日本東方沖の黒潮・親潮海域)とアラスカ湾が考えられる. この2つの海域における塩分偏差の形成プロセス・メカニズムを検討する. また, 表層塩分偏差は, 海洋循環と千島海峡部における水交換によって, ベーリング海からオホーツク海に運ばれると推測される. しかし, オホーツク海と外部との水交換がオホーツク海内部に及ぼす影響についての定量的な理解は進んでいない. ロシアデータに対し新たな解析手法を試みるなどし, 外部からオホーツク海へ流入する水がオホーツク海の海洋構造に及ぼす影響に関して研究を進める予定である. また, 表層塩分偏差の移動が, ベーリング海の他の周辺海域(北極海など)に及ぼす影響についても今後検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は, 海洋観測データ解析による研究から当初の計画以上の成果が得られたため, そちらの追加研究を優先した. このため, 高解像度数値モデルを用いた, ベーリング海における気候変動の再現実験を延期した. それに伴い, モデル実験に係る経費の一部(モデル実験結果(出力データ)蓄積用の大容量記憶媒体の購入など;24万円)が未使用であるが, これらの実験は次年度に行い, その経費も使用する予定である(20万円, 残り4万円は次年度に予定する論文投稿料に充当). また, 予定していた投稿論文の受理が遅れているが, 次年度に受理される予定である. 受理され次第, それに係る経費(論文投稿料, 20万円)を使用する予定である. 次年度も引き続き, 海洋観測データの解析と数値モデル実験を行うため, それに係る経費(計算・解析用消耗品の購入;10万円)を計上した. また, 研究成果を国内外の学会において発表するため, これに係る経費(旅費40万円, 学会参加費5万円)と, 国際誌へ投稿するための経費(英文校閲料10万円, 投稿料20万円)を各々計上した.
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