本課題で、1. ベーリング海・オホーツク海における海洋観測データセット整備とその気候値(=長期平均状態を表す値)の作成、 2. ベーリング海からの塩輸送が与える、オホーツク海で形成される高密度陸棚水の経年変動への影響、 および3. オホーツク海の塩分変動に対する塩輸送の相対的な重要性、 について研究成果を得た。 1.では、ロシアで計測された海洋観測資料の品質管理(不良データの除去等)と各層における海水特性(同密度・深度等における水温・塩分・溶存酸素等)の気候値データセットの作成を行った。このデータは、後述する経年変動に関する研究の基礎として有用であった。この成果を論文にまとめ、国際誌へ発表した(印刷済)。 2.では、北太平洋亜寒帯(緯度約40ー65度)において表層100mに見られる塩分の偏差(平均状態からのズレ)が、海流によりベーリング海からオホーツク海まで運ばれることが明らかになった。この塩分偏差は、オホーツク海で形成・沈降する重い水(高密度陸棚水)の密度を変化させ、最終的に、北太平洋における約1kmの深さに及ぶ大規模な鉛直循環に影響を与えることが分かった。この鉛直循環は、陸起源の鉄・炭素等を外洋へ運ぶ役目も果たすため、その変化は物理・化学・生物学的な海洋状態に影響し、北太平洋の気候変動に対し非常に重要であると考えられる。 本年度は、大気再解析データ(大気観測データとモデルシミュレーションを融合したデータ)の解析を加え、3.について研究を進めた。塩輸送(上記2.)の定量的な重要性を確認するため、オホーツク海の塩分変化に対する他の原因(降水や島嶼部における鉛直混合[より下層からの高い塩分の水が混合する]等)との比較を用いて考察し、ベーリング海からの塩輸送が顕著な役割を果たすことを示した。ここまでの最終的な成果として、2・3を論文にまとめ、国際誌へ発表した(受理済)。
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