研究課題/領域番号 |
24510011
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井上 睦夫 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (60283090)
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研究分担者 |
山本 政儀 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (10121295)
長尾 誠也 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (20343014)
浜島 靖典 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (60172970)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日本海 / 物質循環 / ラジウム / セシウム / ベリリウム / 福島第一原発事故 |
研究概要 |
東シナ海表層海水の228Ra/226Ra比はきわめて大きな季節変動を示す。さらに対馬海峡通過後、対馬暖流としての北上中、本州沿岸堆積物からのラジウム同位体の供給は顕著ではなく、228Ra/226Ra比はそのまま保持される。それゆえ、228Ra/226Ra比は日本海表層における海水さらには溶存成分の循環を議論するうえで有効なトレーサーと考えられた。この結果、溶存汚染物質の日本海表層の滞留時間は対馬暖流の働きにより、2-3ヶ月の短いものであることが明らかになった。 さらには日本海における、この短期間における鉛直移動のトレーサーが必要である。本研究では、7Be濃度の鉛直プロファイルから、トレーサーとしての有効性を検証した。それを利用することにより、表層50 m以浅の溶存成分の50 m以深への滞留時間は2ヶ月程度と見積もられた。 2011年3月の福島原発事故により134Cs,137Csが海洋に放出された。本年度は日本海における福島第一原発起源の134Csおよび137Cs濃度の汚染レベル、さらに経時変動に関しても調査をおこなった。その結果、これら放射性セシウムは、放射性降下物にとともに日本海表層にもたらされた後、対馬暖流によって半年以内に日本海からの除去が明らかになった。これは228Ra/226Ra比の時間的・水平分布、7Be濃度の鉛直分布からみた溶存成分の循環パターンとも一致した。日本海におけるこれら溶存性核種は、海洋の汚染状態を探るトレーサーのみならず、他の溶存汚染物質の循環を探る極めて重要なトレーサーとして有効であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本海表層の228Ra/226Ra比の水平分布・季節変動から表層海水の循環に関する知見を得た。これにより対馬暖流の循環パターンの知見が得られた。 宇宙線生成核種の7Beは降下物として、継続的に海水表層にもたらされている。その半減期 (53日) から海水混合層における短期間の物質循環のトレーサーとなる。日本海においては、7Be濃度の鉛直プロファイルから、水深50 m以浅における溶存成分の鉛直方向の滞留時間は~2ヶ月と見積もられた。 日本海の228Ra/226Ra比の水平分布、7Be濃度の鉛直分布より、福島原発事故起源の放射性セシウムの大部分は、水深50 m以深にもたらされる前に、津軽海峡、宗谷海峡から放出されたことを示す。これはまさに福島原発により日本海にもたらされた微弱放射性セシウムの挙動に一致する。 本成果は、今後有事の際の溶存放射性核種など溶存汚染物質の循環パターンに関する知見をもたらす。その緊急性から、福島第一原発事故のセシウムの結果を中心に以下の国際誌への発表が既になされている。 Inoue, M. et al. (2012) Appl. Radiat. Isot. (in press): Inoue, M. et al. (2012) J. Environ. Radioactivity 109, 45-51: Inoue, M. et al. (2012) J. Environ. Radioactivity 111, 116-119: Inoue, M. et al. (2012) Geochem. J. 46, 311-320
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究成果より、137Cs, 7Be, 226Ra, 228Raの空間分布・季節変動が日本列島を取り巻く日本海における海水および物質循環の重要な溶存物質の循環トレーサーとなることが分かった。今後はさらにその研究フィールドをオホーツク海にまで広げるとともに、粒子吸着性の228Thを粒子循環のトレーサとして組み込む。本年度では、以下の計画を推進する ①平成25年7-8月に、水産総合研究センター中央水産研究所の海調査航海に参加し、日本海~オホーツク海で鉛直(3地点30試料)・鉛直方向(表層30試料)に海水採取をおこなう。できる限り分解能を上げるため、他の研究機関の調査航海においても可能な限り、参加する。 ②海水化学処理:海水試料から、BaSO4、Fe(OH)3およびリンモリブデン酸アンモニウムによる共沈回収により、ラジウム同位体、228Th、134Cs、137Csおよぼ7Beの同時回収をおこなう。 ③低バックグラウンドガンマ線測定:石川県小松市、尾小屋地下測定室内に設置された高検出効率の井戸型ゲルマニウム検出器を利用したガンマ線測定法を適用する。 ④134Cs、137Cs、7Be、226Ra、228Raおよび228Thの日本海~オホーツク海の空間分布を解析することにより、海水および粒子の循環パターンを得る。これらデータベースを構築することは、有事の際の汚染物質の循環パターンを推測するうえでも極めて重要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、海水採取のための調査航海(採取依頼を含む)およびそれら海水試料の化学処理・測定が中心となる。調査航海の参加や打ち合わせ旅費、多量の海水試料の運搬費、化学試薬および測定機器の維持費(液体窒素など)が主を占める。 測定機器(ゲルマニウム検出器)は揃っており、備品など購入予定はない。
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