研究課題
25年度の研究で、日本海における228Ra,226Ra,134Cs,137Cs,7Beは、海洋循環のみならず、溶存汚染物質の循環を探る極めて重要なトレーサーとして有効であることが明らかになった。25年夏季(およびそれ以前)の日本海~オホーツク海調査航海で採取された海水の測定結果の放射性核種分布の解析の結果、以下のことを明らかにした。①夏季の日本海表層の228Ra/226Ra比の水平分布から対馬沿岸分枝、沖合分枝、リマン海流の存在域を確認し、それらの循環パターンの知見を得た。②宇宙線生成核種の7Be(半減期;53日) は降下物として、継続的に海水表層にもたらされていることから、海水混合層における短期間の物質循環のトレーサーとなる。日本海における7Be濃度の鉛直プロファイルから、水深50 m以浅における溶存成分の鉛直方向の滞留時間を~2ヶ月と見積もった。③2013年7月にオホーツク海南西部の表層から深層へ、福島原発起源の134Cs濃度を調べた。すでに原発の寄与はみられなかった。④福島県の起源をもつ新潟県阿賀野川河口域~佐渡海盆の134Csの分布を調べることにより、阿賀野川河川粒子の挙動を明らかにした。⑤228Ra/226Ra比、7Beより得られた海水循環は、福島原発により日本海にもたらされた微弱放射性セシウムの挙動を説明するものであった。さらに、⑥日本海盆・大和海盆の228Ra濃度、226Ra濃度から日本海下部固有水の滞留時間を80年と見積もった。26年度は、さらなるデータベースの構築を行いながら、日本海の物質循環、228Thを利用した粒子吸着性物質の挙動、さらには日本海における福島原発起源の放射性セシウムの寄与に関して総括的に議論する。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、主に放射性核種を利用した、日本海の物質循環(特に水塊循環)の解明を目的にとして進められた。その結果、本年度は、溶存性のラジウム同位体より、日本海の水塊の水平・鉛直方向の循環を得た。さらに短寿命の7Beより、表層海水の鉛直移動の時間軸を設定した。これらから推測される海水循環は、福島原発により日本海にもたらされた微弱放射性セシウムの挙動に一致する。本成果は、今後有事の際の溶存放射性核種など溶存汚染物質の循環パターンに関する知見をもたらした。これら成果は、本年度に、以下の国際誌への発表が既になされた。(1)Inoue, M.et al. (2013) Appl. Radiat. Isot. 81, 340-343: (2)Inoue, M.et al. (2013) J. Environ. Radioactivity 126, 176-187: (3) Kofuji, H. & Inoue, M. (2013) J. Environ. Radioactivity 124, 239-245: (4)Inoue, M.et al. (2014) J. Radioanal. Nucl. Chem. (accepted): (5)Inoue, M.et al. (2014) J. Radioanal. Nucl. Chem. (accepted).このうち2篇は、環境放射能に関する国際学会 (5th Asia-Pacific Symposium on Radiochemistry;金沢) において発表がなされた。
25年度の研究成果より、137Cs, 7Be, 226Ra, 228Raの空間分布・季節変動が日本列島を取り巻く日本海における海水および物質循環の重要な溶存物質の循環トレーサーとなることが分かった。26年度は、主に、粒子吸着性の228Thを粒子循環のトレーサとし、以下の計画を推進する①平成26年7-8月に、水産総合研究センター中央水産研究所の海調査航海に参加し、日本海で、対馬暖流・リマン海流域を含め、表層海水(表層30試料)採取をおこなう。他の季節との比較をおこなうため、他の研究機関の調査航海においても、表層海水採取を行う(採取の依頼済み)。②海水化学処理:海水試料から、BaSO4、Fe(OH)3による共沈回収、低バックグラウンドガンマ線測定法の適用により、ラジウム同位体、228Thの測定を行う。③226Ra、228Raおよび228Thの日本海の空間分布を解析することにより、海水および粒子の循環パターンを得る。これらデータベースを構築することは、有事の際の汚染物質の循環パターンを推測するうえでも極めて重要である。このように26年度は、さらなるデータベースの構築を行いながら、日本海の物質循環、228Thを利用した粒子吸着性物質の挙動、さらには日本海における福島原発起源の放射性セシウムの寄与に関して総括的に議論する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件)
J. Radioanal. Nucl. Chem.
巻: accepted ページ: accepted
J. Environ. Radioactivity
巻: 126 ページ: 176-187
10.1016/j.jenvrad.2013.08.001
Appl. Radiat. Isot.
巻: 81 ページ: 340-343
10.1016/j.apradiso.2013.03.84
巻: 124 ページ: 239-245
10.1016/j.apradiso.2013.06.003