用いた森林土壌の水溶性リンを測定したところ、その濃度は概ね低く、また有機態が優占し約半分から75%を占めた。酸性ホスファターゼ活性は土壌pHと有意な負の相関を示した。また酸性ホスファターゼ活性とβ-D-グルコシダーゼ活性の比も土壌pHと有意な負の相関を示した。酸性ホスファターゼ活性とβ-D-グルコシダーゼ活性の比は、水溶性無機態リンとも有意な負の相関を示した。前年度までに畑土壌で行なった研究から得られた結果より、この関係は、pHの低い森林土壌ではリン利用性が低く、微生物が炭素獲得のためのβ-D-グルコシダーゼ生産よりも、リン獲得のための酸性ホスファターゼ生産に、相対的により多くの資源を配分したことによると推察された。 これまでに得られた全ての研究結果を総合すると、リン利用性が低い土壌では、土壌微生物は多くのリンを獲得するために、炭素獲得酵素よりもリン獲得酵素に相対的に多くの資源を配分していることが判明した。また土壌中のリン利用性により、ホスファターゼ生産菌の組成も変化することが示唆された。とくに本研究で用いた土壌では、土壌中リン利用性が低い場合には、ホスファターゼ生産能を有する一部の微生物種が優占し、それらが盛んにホスファターゼを生産している可能性が示された。この結果の一般性については、今後の研究が待たれる。また本研究により、炭素獲得酵素としてβ-D-グルコシダーゼ、リン獲得酵素として酸性あるいはアルカリホスファターゼを代表させ、その比を算出することで、土壌中リンの生物利用性を化学的抽出法に依らず推定できることが示された。本推定法は、土壌特性の変動が激しい森林土壌において、微生物群集のリン制限・リン要求性を理解する上で有用であろう。
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