研究課題/領域番号 |
24510013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
宗林 留美(福田留美) 静岡大学, 理学部, 講師 (00343195)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オリゴ糖 / 海洋生態系 / 生元素循環 |
研究概要 |
糖は、海水中で定量された有機物の中で量的に最も重要な成分である。しかし、加水分解前の糖の組成を調べた例はほとんどなく、海水中のオリゴ糖の種類と量は明らかでない。そこで、本年度はオリゴ糖の中でも最も構造が単純な二糖の定量方法の確立を目指した。高性能イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリを組み合わせた分析法(HPAE-PAD)による分析条件を検討した結果、トレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの6種の二糖異性体を分離して定量することができた。保持時間の再現性は0.1~0.4%、検出限界は0.05~0.9 µg/Lであった。応答の直線性については各二糖の濃度が8 mg/L以上の場合にシグナル強度が頭打ちになる傾向が確認されたが、0.05~0.2 mg/Lの比較的低濃度の範囲では決定係数が0.997以上の良い直線性が得られた。 HPAE-PADによる海水試料の分析では、塩が糖の検出を妨害するため、脱塩の前処理が必要である。そこで、有機炭素が非常に低いブランク海水に上記6種の二糖異性体を添加した二糖添加海水を用意し、脱塩方法を検討した。従来の脱塩法では、糖の種類によって回収率が9.2~106.7%と大きく異なる上、一部の方法を除いて糖の濃縮が困難であるといった欠点があった。そこで、本研究ではグラファイトカーボンカラムによる固相抽出を適用した。検討の結果、容量500 mgのグラファイトカーボンカラムに二糖添加海水(終濃度各0.01 mg/L)を20 ml通液し、カラムからの溶離後に蒸発乾固を行い、0.5 mlの超純水に再溶解することにより、塩分を検出限界以下まで除去しながら、二糖を92.4~99.2%の回収率で40倍に濃縮することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二糖の分析手法の開発が概ね終了し、予備実験として沿岸の表層海水を用いた分析でもスクロースとラクツロースを定量できた。同時に、今回想定したトレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの6種の二糖以外にも糖と思われる化合物が複数検出されたた。しかし、定量できたスクロースとラクツロースの濃度が予想していた値より著しく低く、海水からの検出例のあるトレハロースが検出されなかったことから、方法に何らかの不備があるのかもしれない。 海水への糖の付加過程として、最も重要であると既存の論文で想定されているのは植物プランクトンによる滲出である。本研究では珪藻の単離株を入手し、無菌状態にするための継代培養を開始した。しかし、途中で枯れてしまうなどの不運があり、無菌状態の確立には至らなかった。 一方、糖の消費者として最も有力なのが従属栄養性の原核生物である。そこで、糖を利用して増殖可能な原核生物の細胞数と糖濃度との関係を、個々のオリゴ糖について明らかにする目的で、トレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの6種の二糖を対象に、MPN法による増殖可能な原核生物の細胞数の評価に着手した。黒潮域と駿河湾で希釈系列および増殖の検出方法の検討を行ったところ、1/5希釈の逐次調整により希釈系列を設定し、SYBR Green Iによる核酸染色と蛍光プレートリーダーを用いた方法により増殖を簡便に検出することができた。 MPN法の導入に道筋をつけたことも踏まえれば、研究の進捗状況はおおむね計画通りであったが、海水中の低分子有機物のデータベース運用を目的としたウェブサイトの開設は達成できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で開発した二糖の測定手法について改良を行いながら、定期的に沿岸の表層海水を分析し、二糖の季節変動を調査する。特に、予備実験として行った沿岸の表層海水の分析において、トレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの6種の二糖以外に検出された複数の化合物は、検出原理上、糖である可能性が高いため、これらの化合物の同定を行う。具体的には、HPAE-PADで測定対象とする糖の種類を増やし、それでも同定できない場合は、LC-MS/MSにより構造を推定し、同定を行う。加えて、糖に対するオリゴ糖の寄与を定量的に評価するため、単糖の分析にも着手する。 二糖の生産過程については、珪藻とシアノバクテリアの単離株を条件を変えて培養し、培養液中の二糖濃度を調べることで、生産される二糖の量および組成に影響を与える要因を考察する。生産される二糖の組成が大きく変えるような要因がわかった場合には、二糖の組成の違いが二糖を基質とする原核生物の種構成に波及する可能性を明らかにするための予備実験に着手する。また、二糖の消費過程については、引き続き、沿岸表層海水で定期的にMPN法による調査を行うことで、基質である二糖による消費過程へのボトムアップコントロールの可能性を明らかにする。 また、研究成果の発信のためにウェブサイトを開設し、一般向けの情報発信を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、二糖および加水分解後の単糖の分析をルーチン的に行うために必要なカラム、試薬などの消耗品類と、LC-MS/MSの使用料に研究費を重点的に充てる。また、藻類の培養を行うために必要な単離株や培地の入手にも研究費を充てる。研究の進捗状況によっては、原核生物の種構成を調べるために、容器・試薬などの消耗品や共同利用施設の装置の使用料に研究費を充てる。さらに、ウェブサイト開設のために必要なコンピューターソフトを購入する。
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