研究課題/領域番号 |
24510013
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
宗林 留美 (福田 留美) 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00343195)
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キーワード | オリゴ糖 / 海洋生態系 / 生元素循環 |
研究概要 |
糖は、海水中で定量された有機物の中で量的に最も重要な成分であり、生物に利用されやすい成分である。中でも、オリゴ糖は低分子であるため微生物以外の生物が海水からオリゴ糖を効率よく吸収するのは困難であると考えられる。従って、生物に対する海水中のオリゴ糖の有用性を明らかにするためには、原核生物などの微生物が重要な対象生物となるが、海洋の天然原核生物群集に対するオリゴ糖の有用性については研究例がない。そこで、本年度は海洋の天然原核生物群集の現存量に対する二糖によるボトムアップコントロールの可能性について検証することを目指して、駿河湾清水港内の表面海水に含まれる原核生物群集の中で二糖を利用して増殖できるものの細胞数(MPN値)をMPN法により求めた。トレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの6種の二糖についてMPN値を求めた結果、何れの二糖でもMPN値は4月に顕著に高く、中でもトレハロース、スクロース、マルトースで高かった。トレハロース、スクロース、マルトースは4月以外の時期でも他の二糖に比べて高いMPN値を示した。トレハロース、スクロース、マルトースは植物プランクトンやシアノバクテリアにより生産されることが知られることから、本研究で得られた結果は、春季の植物プランクトンブルーム時にトレハロース、スクロース、マルトースが海水中に特に多く供給され、これらを利用して増殖する原核生物の現存量を高めた、すなわち、海水中で原核生物群集に対する二糖によるボトムアップコントロールが働いていることを示唆する。また、二糖によりMPN値が異なったことから、原核生物の種によって利用できる二糖の種類が異なることが示唆された。これらの成果は、二糖を起点とした食物連鎖の存在を意味しており、海洋生態系および生元素循環の理解に有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に開発した、高性能イオン交換クロマトグラフィーとパルスドアンペロメトリを組み合わせた分析法(HPAE-PAD)による海水中の二糖の分析手法の改良を行った。HPAE-PADによる海水試料の分析では、塩が糖の検出を妨害するため、脱塩の前処理が必要である。昨年度は前処理で使用した溶媒を蒸発するのに時間がかかり、多検体の分析が困難であった。そこで、今年度は短時間で蒸発する手法を検討した。その結果、Rapidシステム(BioChromato)と窒素ガスの吹きつけ乾燥を併用することで、トレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースを回収率94~100%で回収し、上記以外の糖の混入を2種に抑えることができた。また、これまでトレハロースの溶離時間にベースラインが変動してトレハロースの検出が困難であったが、メーカーのサポートを受けてこの問題を軽減することができた。さらに、HPAE-PADによる分析を補完する目的で、海水に溶存させた低分子化合物を液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)で定量分析するための測定条件の検討を行った。一方、海水中の二糖濃度の季節変動を求めるために駿河湾の表面海水を毎月採水したものの、時間が足りず分析に至らなかった。 化学分析以外には、MPN法に加えて、海水への糖の付加過程を明らかにする目的で珪藻の無菌単離株を入手し、その培養条件および珪藻から培養液中に滲出された溶存成分を分析するための前処理の検討を行った。 今年度は昨年度に明らかとなった問題点の解決を含め様々な検討を行い、試料採取も行ったが、分析装置の問題点の解決に時間を要し、計画通りに研究が進まなかった。しかし、次年度は今年度に得た試料と知見を元に効率よく研究を推進できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に定期的に採取した駿河湾の表層海水を分析し、二糖および全炭水化物の季節変動を調査する。これに加えて、駿河湾を含む沿岸域で鉛直的に海水を採取し、全炭水化物に占める二糖の寄与を鉛直的に明らかにする。これにより、二糖を中心とした炭水化物の海水中での動態を明らかにする。二糖についてはトレハロース、スクロース、ラクツロース、マルツロース、パラチノース、マルトースの六種以外についても定量できるよう、HPAE-PADでの測定対象とする糖の種類を増やし、それでも同定できない場合は、LC-MS/MSにより構造を推定し、同定を行う。 二糖の生産過程については、本年度に確立した珪藻の無菌培養と分析の前処理の技術を用いて、条件を変えて珪藻を培養し、培養液中の二糖濃度を調べることで、生産される二糖の量およびその組成に影響を与える要因を考察する。一方、二糖の利用については、二糖の組成の違いが二糖を基質とする原核生物の種構成に波及する可能性を原核生物の遺伝子解析から明らかにする。さらに、より高次の栄養段階への波及を明らかにする目的で、原核生物の補食者である繊毛虫類などの原生生物の分布と二糖の動態との関連性を調査する。
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