研究課題
1. 陸面統合モデルによる実験昨年度までに、陸面統合モデル(動的全球植生モデルSEIB-DGVMと陸面物理モデルNOAH-LSMの結合モデル)を用いて、東シベリアのカラマツ林における、気温上昇への感度分析を実施した。その結果、今世紀末にかけて予測される気温上昇幅は、地表面の永久凍土層を融解させ土壌水の流出を促すことで、この地域の植物生産性を低下させることが示された。今年度は、IPCC第5次報告書に日本チームが提出した気候変動予測(MIROC-ESM出力)を用いて、気候変動がこの地域のカラマツ林の消長に及ぼす現実的な影響を調べた。MIROC-ESM出力では、我々が研究対象としているヤクーツク市近郊において、2005年から2100年までに、年平均気温が、RCP2.6シナリオの場合4.7℃、RCP8.5シナリオの場合10.4℃上昇するとが予測されている。同時に年降水量は、RCP2.6とRCP8.5シナリオにおいて、それぞれ22%と66%の上昇を予測しており、これは気温上昇に伴う乾燥化を緩和する。さらに大気中CO2濃度は、RCP2.6とRCP8.5シナリオは、それぞれ565ppmと50ppmの上昇を見込んでおり、これは植物の水利用効率を高め、乾燥の影響を緩和する効果を持つ。この気候変動予測を用いてシミュレーションを行ったところ、RCP2.6とRCP8.5のいずれのシナリオの元においても、ヤクーツク市近郊のカラマツ林では、土壌が湿潤化し、そのため植物生産性は高まると予測された。また、シミュレーションを行う範囲を東シベリア域全体に拡張した場合でも、ほぼ全ての地域においてカラマツ林の生産性は高まり、さらにカラマツ林帯はより高緯度に達すると予測された。2. 広域シミュレーション検証用のデータセット整備昨年度に引き続きSPOT-VEGETATIONデータの長期データセットの整備を行った。平成26年度は、2013年のSPOT-VEGETATION 10日間コンポジット反射率データを入手し、春先の展葉日と秋の落葉日及び葉面積指数の1kmスケールの推定を行った。
2: おおむね順調に進展している
温暖化に関する感度実験の投稿論文が却下されたため、現在は新しい成果を含めた論文原稿を準備している。このため、論文の出版については当初計画より遅れている。しかしながら、当初計画では最終年度に実施する予定であった東シベリア全域のシミュレーションを、当該年度中に行うことができた。また、当初計画には挙げていなかった、陸面過程モデルの発達に関してのレビュー論文を出版することもできた。以上の理由より、現在までの達成度は「計画通り」と自己評価した。
1. 陸面統合モデルによる実験当初の研究計画では、カラマツに比べてより乾燥に強い樹種(アカマツなど)をシミュレーターに導入することを計画していた。しかし、実際の気候変動予測の元でのシミュレーションからは、むしろ東シベリア全域が湿潤化するいう結果が得られたために、現在のカラマツ林がより乾燥に強い樹種に入れ替わるという可能性は、今世紀末までに予測されている気候変動シナリオにおけるシミュレーションにおいては、ほぼ無視できることが示された。その一方で、過剰な土壌湿潤化は、カラマツに加湿枯死をもたらす事がわかってきた。実際に、我々が研究対象としているヤクーツク市近郊において、2007~2008年にかけて生じた土壌過湿によって、その後の数年間にわたってカラマツ林に枯死帯を生じさせたという報告が行われている。しかし、現在のシミュレーターにおいては、過湿枯死は扱っておらず、土壌が湿潤であるほど光合成時の水制限が緩和されるというポジティブな反応しか起きない事を仮定している。そこで最終年度の研究方策としては、このような過湿枯死が、今世紀末にかけて東シベリアカラマツ林帯に及ぼしうる影響についても、検討する。2. 広域シミュレーション検証用のデータセット整備当初計画通りに進捗した。これらは、「現在までの達成度」で述べた広域シミュレーションの検証に用いられる。
投稿論文が却下となったために、その投稿費用(およびオープンアクセス費用)として確保しておいた金額に未使用が生じた。
論文投稿費用に充てる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 61 ページ: 34-47
10.1080/00380768.2014.917593
Biogeosciences
巻: 11 ページ: 6939-6954
10.5194/bg-11-6939-2014