本研究は以下の3点を目的として遂行された。(1) ダスト発生臨界風速を表す実験式を熱慣性と植生指数の二変数関数として導出、(2) ゴビ地域とその周辺におけるダスト(黄砂)発生条件分布の経年変化を解明、(3) 黄砂発生域の変動を検証。 結果としては、上記3点のいずれについても十分な成果を挙げることができなかった。 本研究において成果を挙げることができたのは、(2)に関係する土壌表層水分条件を評価するための熱慣性の時空間分布について、その算定精度を向上させ、ダスト発生頻度が高い地域における広域分布を見出したことである。熱慣性の算定精度の向上とは、地表面熱収支モデルにおいて、夜間の地表面温度の精度向上のため計算式を改良したことである。これにより熱慣性値と表層土壌水分量実測値の相関が向上した。 一方、当初の研究目的を達成できなかった原因として、ダスト発生の要因として地表面付近の土壌のクラスト化が生じていたことが挙げられる。クラスト化によるダスト発生臨界風速が土壌水分量の単純な関数にならない可能性が並行して行われた研究で示されている(Ishizuka et al. 2012)。クラスト化はその土壌表面に降水等による間欠的な水流が生じ、堆積した細粒子が乾燥する過程で生じることが多い。本研究でダスト発生集中観測点として用いたモンゴル国・ツォクトオボー周辺では、現地踏査によって広範囲にクラスト化が見られることがわかった。このため、当観測点における観測データを本研究のために十分に用いることができなかった。 このようなクラスト化土壌は主なダスト発生源であるツォクトオボーの西北に当たる地域に広がっている可能性が高い。 今後の研究の方向性として、この地域の土壌水分条件を評価し、間欠水流の頻度とダスト発生との関係を熱慣性値と衛星データ等を比較することによって明らかにすることが考えられる。
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