研究課題/領域番号 |
24510022
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
内田 雅己 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (70370096)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 南極 / 物質循環 / 菌類 / 多様性 / 陸上生態系 |
研究概要 |
南極大陸は厳しい環境のため維管束植物は存在せず、コケ、地衣、藻類等の炭酸同化を行う光合成生物が生育しているが、生態系物質循環に関しては理解が進んでいない。本申請課題では、南極露岩域に存在する生態系の構造や機能を炭素・窒素の物質循環の視点から調査し、それぞれの生態系間で比較することで、南極露岩域に成立する生態系の共通性や異質性を解明し、生態系の多様性を築き上げているしくみの一端を明らかにすることを目的とする。 ラングホブデ雪鳥沢は大陸性南極のリュッツ・ホルム湾沿岸部の露岩域でもっとも植生が豊かな場所の1つであり、南極特別保護地域に指定されている。そのリュッツ・ホルム湾沿岸域における有機物の動態に深く関与していると考えられる菌類の多様性と分布を明らかにするため、ラングホブデにおいて優占する陸上植物の1つであるコケを対象として菌類相の調査を実施した。2009年12月から2010年1月までの期間に、雪鳥沢の流域に沿った6地点に加えて、近隣の3地点を含む、計9地点で採取を行った。菌類の18S rDNAをPCRにより増幅し、DGGE法により多様性を評価した。その結果、全体55サンプルのコケにおいて14分類群の菌類が検出された。雪鳥沢の上流と下流では、氷床の後退時期が異なるため、生態系の成立時間は異なるものの、菌類の多様性や種組成の変化は認められなかった。 雪鳥沢の上流・中流および下流域で植物と土壌を採取し、バイオマスや炭素・窒素濃度の測定を実施した。雪鳥沢には、コケ、藻類、ラン藻類およびバイオロジカルソイルクラストなどが地表面を覆っている。植物に覆われていないところの土壌中に含まれる炭素と窒素は極めて低い値を示した一方、植物には30%以上の炭素と1%以上の窒素が含まれていた。植物直下の土壌では、炭素濃度と窒素濃度の濃度が急激に減少する傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機物分解に関与する菌類の多様性や分布については、想定していた以上に実験と解析を進めることができ、成果の一部を国際誌に投稿し、受理された。 物質循環に関する情報として、植物バイオマスやリターや土壌中の炭素・窒素濃度、安定同位体比の分析に着手しているが、サンプルの不均一性が高かったたことなどにより、分析手法の確定までに予想以上の時間を要した。しかし、その後はほぼ予定通り進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もこれまでの方針で研究を進めるが、雪鳥沢に加えて、他の地域の試料の分析に着手する。菌類の多様性については、これまでの菌類の分類について、主に遺伝子解析手法を用いて進めていく。その後、菌類の種組成と菌類の生息環境との関係について解析を行う。 物質循環の関係では、炭素濃度、窒素濃度および安定同位体比の分析を進める。また、コケの有機物層の試料を用いて、炭素年代測定を行い、雪鳥沢上流部と下流部におけるコケ有機物の成長に関する情報を得る。一方、微生物バイオマスの測定を行い、炭素プールに関する部分を埋めていく。雪鳥沢については、氷床の後退して間もない上流部と数千年から1万年以上経過している中・下流部とで、炭素プールにどのような違いがあるか調査する。 整理できたデータについては、極域科学シンポジウムや日本生態学会等で随時発表していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については、遺伝子解析、微生物バイオマス測定、全炭素・窒素濃度測定等に必要な器具、試薬等を購入する予定である。旅費については、研究打ち合わせや成果発表で使用する予定である。人件費/謝金は、主に実験の補助に関する単純労務謝金に充てる予定である。その他については、安定同位体比の依頼分析や試料の輸送費として使用する予定である。
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