全国各地における大気中窒素酸化物由来成分(二酸化窒素,一酸化窒素,硝酸,亜硝酸および硝酸塩)のの濃度とその挙動を調査するとともに、インファレンシャル法による沈着速度算出プログラムを用い、沈着量評価を行った。 酸化態窒素(NOy)の濃度では、多くの地点で二酸化窒素(NO2)および一酸化窒素濃度(NO)が高いが、利尻および辺戸岬ではNO2および硝酸塩(NO3-)濃度が高かった。そのため、利尻および辺戸岬ではNO3-の酸化態窒素沈着量に対する寄与が大きかった。沈着速度が大きい硝酸(HNO3)は濃度は低かったが沈着量の寄与では大きい場合が多かった。一方、NOは濃度が高い場合が多かったが、沈着速度は小さく、沈着量は少なかった。亜硝酸(HONO)は、遠隔地では濃度が低かったが、都市部およびその近郊で濃度は高く、北日本の札幌ではHNO3より高い濃度を、他の地域でもHNO3と同程度の濃度を示した。沈着量は少ない場合が多かったが、札幌および加須の冬の沈着量では、NO2に次ぐ寄与を示した。また、特に報告事例の少ないHONOについて、より詳細に検討した結果、HONOとNO2濃度の変動は連動する地点が多く,NO2と水の各種表面での反応による間接発生の寄与が大きいと考えられた。また、辺戸岬ではHONOとNO2濃度の比が全般に大きく、間接発生の反応がより進んでいること、同じくバックグランドである北海道の利尻では、HONO/NO2比は気温および絶対湿度との相関が高く、気象条件が反応の律速となっていると考えられた。そのため利尻では気温が高かった年の夏は反応が進み、HONOの濃度の上昇がみられた。また気温の上昇は、沈着速度の大きいHNO3濃度の上昇も招くことから、気象条件による制限が大きい北日本などでは、温暖化による大気組成の変化とそれに伴う窒素循環への影響が大きくなると考えられた。
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