研究実績の概要 |
本研究は,宍道湖産のピコシアノバクテリア培養株の確立とその応用研究を目的としている。本年度の概要を以下に記す。 1)ピコシアノバクテリアESS-1-2株は宍道湖より分離された株であるが,球形と楕円体の細胞が混在することからSynechocystis属とSyncehococcus属の種類が混在している可能性があった。そこで国立環境研究所の志村氏,河地氏との共同研究により,クローン株を複数作製しそれらの16SrDNAの解析を行った。その結果すべての作製されたクローンがCyanobium属の一種に近縁と考えられた。これによって今後の応用研究にはクローン化された培養株を用いることが可能となった。本年度もピコプランクトンを宍道湖湖心の湖水の希釈法で新たに分離し培養株として保存したが,本培養株の形態もESS-1-2株と類似していた。 2)応用研究の一つとしてクローン化されたESS-1-2株を培養し,ヤマトシジミに摂餌させたところ,ヤマトシジミは本種を摂餌し,出水管から消化糞と未消化糞を排泄した。解剖したところ未消化糞を含む消化管は青緑色になり,クロロフィルの自家蛍光も残っていた。消化糞では本種の蛍光が無くなり,形状も顆粒に変化していることから中腸腺で消化されていることが示唆された。 3)島根県水産技術センターにピコシアノバクテリアESS-1-2株,珪藻Thalassiosira pseudonana,緑藻Pseudodictyosphaerium minusculumを分譲し,南里氏(東京大学大学院),土江氏,勢村氏によってこれらの種類のヤマトシジミ幼生にとっての餌料価値が検討された.摂餌実験から,珪藻と緑藻にくらべてESS-1-2株は,成長が悪く,着底までの時間が長いこと,加えて,着底後の成長と生残率が共に悪いことが示唆された.今後,稚貝ヤマトシジミにとっての餌料価値が総合的に判断される.
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