研究課題/領域番号 |
24510036
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
上田 直子 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (10433400)
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研究分担者 |
山田 真知子 福岡女子大学, 文理学部, 教授 (30438303)
門上 希和夫 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (60433398)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 汚染底質 / イトゴカイ / 毒性評価 / DNAマイクロアレー / 奇形幼生 |
研究概要 |
本研究の目的は、北九州市の洞海湾に現存する汚染底質が堆積物食多毛類のイトゴカイにどのような毒性影響を及ぼしているかを明らかにすることである。また、その研究成果をもとに、イトゴカイを用いた汚染底質の毒性影響評価手法を開発することである。今年度の成果を以下に示す。 1 イトゴカイ飼育実験による汚染底質の毒性影響 イトゴカイの飼育実験は、洞海湾の局所に存在するPCB類およびダイオキシン類を高濃度に含んだ汚染底質を用いて行い、それらの濃度とイトゴカイの生残率、幼生産出率、産出した幼生数、奇形幼生発生率などの関係を明らかにした。ダイオキシン類濃度とイトゴカイの生残率、幼生産出率との関係をみると、ダイオキシン類の基準値(150pg-TEQ/g・dry)を超えると、生残率は次第に、幼生産出率は急激に低下した。150pg-TEQ/g・dry付近でイトゴカイの生残率がほぼ50%であることから、ダイオキシン類の底質基準値はイトゴカイの半数致死濃度とほぼ一致しているといえる。PCB類濃度とイトゴカイの生残率、幼生産出率との関係をみると、ダイオキシン類と同様に濃度が高くなるに従い、生残率および幼生産出率は低下した。PCB類の基準値は10mg/kg・dryであるが、飼育実験では5mg/kg・dry程度で生残率は50%以下となり、幼生産出率も5%以下になった。このことから、PCB類に対するイトゴカイの半数致死濃度は5mg/kg・dry付近であり、現基準値以下でイトゴカイへの毒性影響は現れると考えられる。 2 イトゴカイの遺伝子配列の解明と発現変化の確認 清浄底質および汚染底質(PCB類の濃度をイトゴカイの半数致死濃度付近に設定)でそれぞれ飼育実験を行ったイトゴカイを用い、次世代シーケンサーで遺伝子配列の解析を行った。その結果、DNAマイクロアレー上に搭載するcDNA配列を20,328個確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 洞海湾の汚染底質実態把握 2007年に湾内7地点で採取した海底表層泥について、重金属および1,000種の化学物質の分析・解析を行った。これらの分析結果をNOAAの底質ガイドラインを基準に評価し、生物毒性が疑われる物質を抽出した。ただ、表層泥ではダイオキシン類やPCB類の高濃度汚染は確認されなかった。汚染底質の実態把握はほぼ当初の研究計画どおりに進行していると考える。 2 イトゴカイ飼育実験による汚染底質の毒性影響 イトゴカイの飼育実験では、結果が明瞭にでるように、ダイオキシン類およびPCB類を高濃度に含んだ汚染底質(浚渫計画で採取された深さ1-2mの底質)を用いて行った。実験に用いた底質の有害物質濃度の分析およびそれらの濃度とイトゴカイの生残率、幼生産出率、産出した幼生数、奇形幼生発生率などの関係を明らかにした。イトゴカイの生残率および幼生産出率からは、ダイオキシン類およびPCB類に対するイトゴカイの半数致死濃度が確認できた。一方、幼生数や奇形幼生の発生率は、実験に供したダイオキシン類およびPCB類の濃度が高かったためかデータ数がわずかしか得られず、次年度の課題となった。 3 イトゴカイの遺伝子配列の解明と発現変化の確認 上記の飼育実験から、PCB類の毒性影響に着目して、清浄底質および汚染底質(PCB類の濃度をイトゴカイの半数致死濃度付近に設定)でそれぞれイトゴカイの飼育実験を行った。それらのイトゴカイを用い、次世代シーケンサーで遺伝子配列の解析を行った。その結果、イトゴカイの遺伝子配列の解析に成功した。また、PCB類の毒性影響を受けたイトゴカイは遺伝子のどの部分が影響を受けているかをおおよそ推定することができ、次年度以降のDNAマイクロアレー作製への手がかりをつかんだ。
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今後の研究の推進方策 |
1 イトゴカイ飼育実験による汚染底質の毒性影響 これまで、イトゴカイの飼育実験に用いる汚染底質を洞海湾の底質を用いて行ってきたが、様々な有害物質が混合されていることや濃度レベルの調整が困難であった。このため、飼育実験の段階では、有害物質を重金属類に絞り、汚染底質を人工的に作製して試みる予定である。これにより、昨年度明らかに出来なかった奇形幼生の発現率や遺伝子への影響が今年度の実験系よりクリアーになると考えられる。イトゴカイへの毒性影響レベルが把握できれば、次に洞海湾の汚染底質分布(コアサンプラーで深い層の底質を採取する予定)との照合を行うことを計画している。 2 イトゴカイの遺伝子配列の解明と発現変化の確認 24年度の成果をもとに、35~40塩基長のオリゴDNAプローブ配列を設計し、イトゴカイDNAマイクロアレーを作製する予定である。このDNAマイクロアレーを利用して、上記の飼育実験をしたイトゴカイの遺伝子発現解析を行い、重金属類のイトゴカイへの毒性評価を行うことを考えている。飼育実験で生残率、幼生産出率、奇形幼生発現率などが明確に得られれば、それらとDNAマイクロアレーで得られた結果との照合を行い、イトゴカイDNAマイクロアレーの精度を確認できると考える。精度が高ければ、今後汚染底質の毒性評価法として一般的な利用が出来るようになると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1 洞海湾の汚染底質のサンプリング 20万円 2 汚染底質の分析・解析 50万円 3 イトゴカイの飼育実験 50万円 4 DNAマイクロアレーの作製および解析 110万円 5 学会での発表等 20万円
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