研究課題/領域番号 |
24510039
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠本 邦子(竹本邦子) 関西医科大学, 医学部, 准教授 (80281509)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / X線マイクロCT / 軟X線顕微鏡 / 有機物量評価 / 粒子性有機炭素(POC) |
研究概要 |
1.X線マイクロCT法によるシアノバクテリアの軟X線顕微像獲得に関する研究: 琵琶湖よりPhormidium tenueとして分離された緑色の株(緑株)をガラスキャピラリィに封入し、結像型軟X線顕微鏡を用いたCT法で3次元観察を行った。投影像は試料回転角4度毎に計45枚取得し、露光時間は一画像当たり180秒とした。断層像の再構成はFiltered Back-projection法で、Shepp-Loganフィルターを用いて行った。風乾試料では、波長2.0 nmを用いることでP. tenueの3次元像を得ることができた。含水試料では、水に対して透過率の高い波長2.33 nmを用いることで軟X線像を得ることができた。しかし、キャピラリィ内での試料の完全固定ができず、再構成像を得ることはできなかった。今後、試料の固定法を検討し含水状態での3次元像の獲得を目指す。 2.微小シアノバクテリアの微細構造の同定: P. tenueの緑株と茶色の株(茶株)の微細構造を、軟X線顕微鏡と低真空クライオ走査型顕微鏡を用い詳細に調べ比較した。緑株は粘質鞘を持たない太い細胞からなり、茶株は薄く堅固な鞘を持つ細い細胞からなっていた。軟X線顕微鏡で確認できた細胞内構造物は、ポリ燐酸顆粒とカルボキシソーム様構造であることが分かった。茶株ではカルボキシソーム様構造とポリ燐酸顆粒の大きさがほぼ同じであるのに対して、緑株ではポリ燐酸顆粒はカルボキシソーム様構造よりはるかに大きかった。微細構造の大きな違いは、緑株と茶株が異なる種である可能性を示唆する。 3.細胞由来の炭素量換算方法の検討: 軟X線2次元像と粘質と細胞の構成元素の分析データを用いた炭素量換算方法について検討した。軟X線像から細胞容積,微細構造,X線吸収率を評価し、細胞由来の炭素量換算方法検討し、得られた値を従来法で測定した値と比較し良い一致をみた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他の分析法や顕微法では把握が困難な微小植物プランクトン由来の有機物量を計測し、新しい『水分析法』を提案することを目的としている この目標を達成するため、微小シアノバクテリアについて、(1)生きた状態に近い状態での軟X線マイクロCT観察による微細構造同定、(2)粘質鞘を含めた細胞構成元素の分析とX線像からのX線吸収率の算出、(3)細胞容積、微細構造、X線吸収率から細胞由来の炭素量換算方法の確立、という3つのサブテーマを設けた。今年度は、主に(1)の達成を目標としたが、(2)と(3)についても検討することができた。 (1)の達成を目指し、「X線マイクロCT法によるシアノバクテリアの軟X線顕微像獲得に関する研究」と「微小シアノバクテリアの微細構造の同定」と行い、風乾したPhormidium tenueのX線マイクロCT像を得ることができた。また、ポリ燐酸顆粒とカルボキシソーム様構造をX線で捉えることができていることを示すことができた。最終目的である生きた状態に近いシアノバクテリアの3次元像の獲得には、含水状態のP. tenueの固定法の不備で達成できなかった。 (2)と(3)の予備実験として、軟X線の2次元像と粘質と細胞の構成元素の分析のデータから、細胞由来の炭素量換算する方法を検討した。研究協力者による粘質と細胞の構成元素の分析データより炭素量を計算したところ、従来法で測定した値と良い一致をみた。ことから、申請者が提案した方法の有効性を確認することができた。 以上より、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のため、次年度は、微細シアノバクテリアについて、(1)生きた状態に近い状態での軟X線マイクロCT像の獲得と微細構造同定、(2)構成元素の分析と軟X線3次元像からシアノバクテリアの含有炭素量換算方法の確立、を目指す。 1.生きた状態に近い状態での軟X線マイクロCT像の獲得と微細構造同定 含水状態でのシアノバクテリアについて、軟X線像は得られたにも関わらず、シアノバクテリアがキャピラリィ内を浮遊することで位置固定が困難となり、3次元再構成に至らなかった。固定法として、冷却法と不凍液の使用を検討している。凍結することでシアノバクテリアはキャピラィの中で位置固定される。しかし、凍結は氷晶形成による試料形態のダメージを引き起こす。このため、不凍液との併用により、凍らせることなく、細胞の動きや溶媒の流れを遅くし、試料の固定を目指す。例えば、DMSOは電子顕微鏡観察において氷晶防止剤として利用される生体試料にも利用される薬品であり、軟X線観察においても有効であると考えている。このような不凍液の利用を検討してみたい。最終的には、Synechococcus sp.のような粘質鞘をもった微小シアノバクテリアのマイクロCT像の獲得を目標とする。 2.構成元素の分析と軟X線3次元像からシアノバクテリアの含有炭素量換算方法の確立 軟X線2次元像と構成元素の分析データを用いた含有炭素量換算法を拡張する。シアノバクテリア構成元素の分析データから想定されるコントラストを予測し、画像シミュレーションを作成し、軟X線3次元像での粘質鞘と細胞の識別について検討する。得られた軟X線マイクロCT像から 含有炭素量を求める。求まった値は、従来法による値と比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
観察対象のシアノバクテリアは継体培養している。年度末に培地への雑菌の混入により、観察対象のシアノバクテリアが実験予定日に準備できず、予定していた実験を行うことが出来なかった。次年度に使用予定の研究費はその実験のための不凍液等の消耗品費と実験旅費からなる。この実験は次年度に行う予定としている。
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