研究課題/領域番号 |
24510039
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠本 邦子 (竹本 邦子) 関西医科大学, 医学部, 准教授 (80281509)
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キーワード | 軟X線顕微鏡 / シアノバクテリア / X線マイクロCT / 有機物量評価 / 炭素量換算 |
研究概要 |
1. 微小シアノバクテリア由来の有機物量の見積:これまで開発してきた粘質鞘を有するシアノバクテリア由来の全有機物量を見積る方法を,琵琶湖より分離した微小シアノバクテリアSynechococcus sp. のピンク色の株(pp株)へ応用した。pp株は寒天質状の粘質鞘を持つことが知られており,粘質鞘と細胞を分離し,それぞれについて化学組成分析を行い,X線吸収係数を算出した。細胞と粘質鞘のX線吸収係数とX線像から有機物量を炭素量換算し求めた。この値の妥当性を従来法との比較により確認した。 2. X線マイクロCT法による微小シアノバクテリアの観察:pp株の細胞と粘質鞘の微細構造をより正確に求めるため,X線マイクロCT法を適応し3次元像の取得を試みた。観察は立命館大学SRセンター結像型軟X線顕微鏡ビームラインBL-12で行った。観察波長は2.3 nm,投影像を試料回転角4度毎に45枚取得した。断層像の再構成はFiltered Back-projection法で,Shepp-Loganフィルターを用い行った。含水試料で桿菌状(長径:約500 nm,短径:約300 nm)の細胞を確認できたが,良好な再構成像を得ることができなかった。キャピラリィの直径が細胞径に比べ1桁以上大きく,細胞がキャピラリィ内を移動し,像にボケが生じたことが原因と考え,凍結固定法を導入し準備を開始した。 3. 微小シアノバクテリアの同定:琵琶湖より分離し,現在Phormidium tenueと同定されているカビ臭を発生させる緑色の微小シアノバクテリアの微細構造を軟X線顕微鏡で詳細に観察し,P. tenueに分類されないことを示唆する結果を得た。従来法(透過型電子顕微鏡)による比較観察と,シアノバクテリアの研究者による遺伝子解析の結果から新種と判断した。現在,共同で新種としての報告に向けた準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の分析法や観察法では定量も観察も困難な微小植物プランクトン,特に粘質鞘を有する微小シアノバクテリア由来の有機物量を見積もる新しい「環境水分析法」の提案を目指している。 これまでに,粘質鞘を有する微細シアノバクテリアについて,X線吸収係数とX線像からシアノバクテリア由来の有機物量を炭素換算で求める方法を提案した。この方法を用い,軟X線2次元顕微画像と細胞と粘質鞘のモデル組成から有機物量を炭素換算で求め,従来法で測定した有機物量と比較を行ってきた。 H25年度は,Synechococcus sp. のpp株について,有機物量の見積もりを行った。pp株は,近年琵琶湖で増加傾向にある難分解性有機物の原因生物として最も警戒されている,寒天質状の粘質鞘を持つ微小シアノバクテリアである。pp株の細胞と粘質鞘を分離する方法を開発し,それぞれの化学組成分析を精密に行うことができた。その結果,細胞と粘質鞘のX線吸収係数が正確に求まり,軟X線顕微鏡像からpp株由来の全有機物量を求めることができた。さらに高精度の定量のため,細胞1個とそれを取り巻く粘質鞘の3次元像の取得を目指し,含水状態のpp株の軟X線顕微鏡観察にマイクロCT法を適応した。含水状態で細胞1個を確認し,凍結固定法の導入で細胞と粘質鞘の3次元像が得られる可能性を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
微小シアノバクテリアの良好な3次元軟X線像を獲得し,この3次元軟X線像から含有炭素量換算を行う。総括として,本手法の新規「環境水分析法」としての可能性について検討する。 1. 微小シアノバクテリアの軟X線マイクロCT観察:琵琶湖の難分解性有機物の原因生物として警戒されている寒天質状の粘質鞘を有する微小シアノバクテリアSynechococcus sp. のpp株の良好な3次元像の取得を目指す。凍結法を用いガラスキャピラリィ中で未処理のpp株を固定し,マイクロCT法で観察を行う。そのため,pp株専用の凍結試料セルを作製する。 2. 含有有機物量の見積:pp株の3次元軟X線像と細胞と粘質鞘の化学分析データを用い,pp株由来の有機物量を炭素量換算で見積もる。 3. 研究の総括:他の微小シアノバクテリアや,培養条件により形態特徴が大きく変化するシアノバクテリア等にこの方法を適応し,本手法の適応範囲について検討し,新しい「環境水分析法」としての可能性について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
支出を予定していたUVSOR(分子科学研究所,愛知県岡崎市)での実験出張費用が分子科学研究所よりサポートされたため,次年度使用額が生じた。 シアノバクテリアの培養用薬品に使用する。
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