研究課題/領域番号 |
24510041
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明石工業高等専門学校 |
研究代表者 |
渡部 守義 明石工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (00390477)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | テッポウエビ / 海中発音生物 / 沿岸環境評価 |
研究概要 |
本事業では、申請者が提案したテッポウエビ類の発する音を1分間あたりの発音数(パルス数)で表現する新しい環境指標と沿岸域の水質環境や物理環境などの関係性について体系的に整理し、海域の環境評価システムを構築することを目的としている。本研究期間内では、パルス数の観測から以下の3つを解明する。 1.日本沿岸域のテッポウエビ類の分布:日本沿岸域のテッポウエビ類の分布状況を調べることを目的に、平成24年度は9月3日~8日の5日間をかけ北海道沿岸域19地点の観測を実施した。パルス数の多寡はあるものの全ての地点でテッポウエビ類のパルス音を観測することができた。しかし9月は比較的温暖な気候であり、調査時の平均水温は22.2度とテッポウエビ類の活動も活発であったと推測される。そこで9月より水温が低く生息環境の厳しい3月11日~13日に最北端の稚内3地点で観測を行った。3月の調査では平均水温は-1.2℃となっており、全ての地点でパルス音を観測することができなかった。水温低下に伴う個体活性の低下、低水温による個体の死滅などの理由が考えられる。 2.環境変化がテッポウエビ類の生息分布に与える影響の評価:上記1のパルス数観測結果と調査時に測定した水質との関係を調べた結果、パルス数は高緯度になるほど少なく、水温に高い相関があることが分かった。また、貧酸素、低水温や低塩分の観測地点ではパルス数が少ない傾向にあった。この他GISを用いて各地点の水中マイクの集音範囲面積とパルス数の関係解析を行った結果、測定面積が大きくなるほどパルス数も増加する傾向を確認することができた。 3.水中に存在する様々な音の解析:上記1の観測時に収録した水中音響の他、山口大学工学部関根教授らが収録したナルトビエイやクロダイなどの貝食魚の二枚貝の摂食音などの音響データの収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で達成すべき目的別にまとめると下記のとおりである。 1.日本沿岸域のテッポウエビ類の分布:平成24年度は9月3日~8日に北海道沿岸域の函館から時計回りで釧路までの19地点の観測を実施した。その結果、夏季におけるテッポウエビ類は最北端の稚内でも観測できた。長崎大学の竹村氏らによる1967年の調査で生息北限とされた津軽海峡より高緯度の地域でもテッポウエビ類のパルス音が確認できたことより、その生息域が変化していることが確かめられた。また、当初計画にはなかった9月より水温が低く生息環境の厳しい3月11日~13日に最北端の稚内3地点で観測を行った。この調査により稚内ではテッポウエビ類のパルス数を観測することができなかった。以上より本項目は、ほぼ当初計画を達成できたと言える。 2.環境変化がテッポウエビ類の生息分布に与える影響の評価:上記1のパルス数観測結果と調査時に測定した水質との関係を調べた他、水中マイクの集音範囲面積と計測されるパルス数との関係を解析した。一方で、日本沿岸全域でのGISデータベース構築のための衛星画像、水質データ入手などには至っていないが、情報収集はできているので次年度に向けての道筋はできている状態である。 3.水中に存在する様々な音の解析:水中音響データの収集にとどまっているので、次年度以降解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書に従い、下記のような修正を加え研究を遂行する。 1.日本沿岸域のテッポウエビ類の分布:平成25年度は東北、北陸、関東地方の沿岸域のテッポウエビ類のパルス数分布調査を実施予定であったが、調査期間が限られるため日本海側沿岸部の観測に変更する。これに伴い使用しなくなった経費を冬期の調査に充てる。 2.環境変化がテッポウエビ類の生息分布に与える影響の評価:沿岸域環境データベースのためのデータ収集を引き続き行う他、テッポウエビ類の生息分布を図鑑や海中写真愛好家らが公開するホームページ(テッポウエビはハゼと共生することで知られている)から情報収集を行いGISで整理し、テッポウエビの種類別の分布地図を作成する。 3.水中に存在する様々な音の解析:収集した水中音響データの解析を逐次実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の予算が189,644円繰り越されている。調査旅費の繰り越しについては、研究計画書に記載しているように、自然災害や天候不順等で調査できない場合には次年度の調査あるいは最終年度の補充調査費などに充てる。研究計画書に従い、下記のような修正を加え研究を遂行する。 1.日本沿岸域のテッポウエビ類の分布:平成25年度は東北、北陸、関東地方の沿岸域のテッポウエビ類のパルス数分布調査を実施予定であったが、調査期間が限られるため日本海側沿岸部の観測に変更する。これに伴い使用しなくなった経費を冬期の調査に充てる。なお、調査ではレンタカーを借用し、各地域の起点となる場所への長距離移動に係る経費、宿泊旅費、レンタカー借り上げ料金(任意保険料金を含む)、燃料代、高速道路利用料金などの経費を計上する。 2.環境変化がテッポウエビ類の生息分布に与える影響の評価:沿岸域環境データベースにはGISを利用する。GIS利用のためのソフトウェア保守契約料の他、衛星画像、デジタル地図データ、統計情報データ等を購入する。 3.水中に存在する様々な音の解析:収集した水中音響データの解析を逐次実施する。 また、本事業においては調査補助とデータ整理のための補助員を雇用するための経費を計上する。雇用については研究計画年度ごとに、データベース構築補助業務として週1日、現地調査同行8日間程度を想定している。
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