研究課題/領域番号 |
24510042
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
冨岡 典子 独立行政法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 主任研究員 (40168399)
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キーワード | アオコ / M. aeruginosa / rRNA/rDNA比 / 光 / 移流 |
研究概要 |
臨湖実験施設付属の護岸の湾外及び湾内において2013年の6月~8月にかけて、表層、中層及び低層の湖水のサンプリングを行い、M. aeruginosa rDNA濃度及びrRNA濃度及びTm値の測定を行った。その結果、湾外において8月4日~8月10にM. aeruginosa rDNA濃度の急激な上昇が認められ、同時期に湾内にも高濃度のM. aeruginosaが検出された。8月10日の湾内では表層に中層・下層の8倍の濃度のDNAが検出されたが、Tm値に大きな変化はなく、平穏な湾内に於いて表層にM. aeruginosaの藻体が集積したと考えられた。一方、湾外では底層から表層に向かってM. aeruginosa濃度が増加し、底層と表層の濃度の差は20倍以上及んだ。また、表層のTm値は水面下10cmのTm値よりも0.5℃低く、表層とそれ以深のクローンが異なると考えられた。湾外の濃度の増加は、通常考えられるM. aeruginosaの増殖速度よりも早く、別の場所で増殖した細胞が風または流れによって集積した可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
濁度計のデータは順調に取得できていたが、本研究で重要な期間である夏期にロガーの故障により一部欠失が出たことは設備の管理面で問題があったと思われる。2013年の夏は霞ヶ浦全体でM. aeruginosaによるアオコの発生は少なかった。調査現場でも、表層にマットを形成するほどのアオコは認められず、増殖速度の検討は困難であった。しかしながら、調査期間に1回だけあった表層アオコの分析から、湾内外でのM. aeruginosaのクローンの差異を検出できたのは大きな収穫であり、今後詳細な検討をすることにより、アオコの表層移動についての知見が得られる可能性が示された。また、昨年のM.aeruginosa増殖期(6月~7月)の霞ヶ浦土浦入りの湖水中の窒素濃度は土浦入りでアオコが再発生した2007年から2012年までの平均の55%と低く、富栄養湖の霞ヶ浦で、M.aeruginosaの増殖を栄養塩の低減によって制御できる可能性が示されたことは、重要な収穫であったと考えられる。これらを勘案して、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
底泥表層に供給され、越冬しているM. aeruginosaの藻体量、rRNA/rDNA比に基づく生残率の推定を行うための、コアの採取を3月に実施した。底泥で越冬しているクローンと、湖水中で優占するクローンの関連を明らかにできると期待している。昨年度は濁度計のデータに欠失が出たので、今年度は安定したデータの取得を心がける。また、昨年度湾内において、一日での現地性のM.aeruginosaの表層への集積を観察することができた。野外における現地性のアオコの集積データはほとんど得られていないので、本年度は蛍光光度計を設置して、藍藻類の水中での挙動を解析し、表面への集積現象の詳細を明らかにしたいと考えている。これらを総合して、冬期の越冬と夏期の環境因子がアオコの発生に及ぼす影響を明らかにするとともに、rRNA/rDNA比とクローンの差異の検討によって、アオコ発生原因となる増殖が、いつ・どこで起こるかの予測につなげて行きたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は2009年以降夏期繰り返し起こっていたM.aeruginosaによるアオコが1回しか発生せず、予定していたよりも、分析試料数が少なかった。また、定量PCRのTm値によりクローンの遷移が解析できることが明らかになったため、当該年度のアオコ調査時に使用予定であった、クローニング及びシークエンス用の消耗品を大幅に節約することができた。 当該年度の研究から調査地点において、一日で表層にアオコが集積する現象を観測できたことから、次年度はアオコの表層集積に関しても検討を行うこととした。そのため、当該年度節約できた予算と次年度の予算を使用して、同地点に濁度計に加えて蛍光光度計を設置し、風や波による底泥の巻き上げがアオコの発生に及ぼす影響とともに、アオコの垂直移動に及ぼす影響についても解析を行う予定である。
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