東日本大震災に起因する福島第一原発からの放射能漏れによるヒトへの健康影響に加えて、事前環境に対する影響も同様に懸念されている。生態系の頂点に位置するといわれる人類に対する放射線防護の観点から、野生動物に対する放射線の影響を把握することは非常に重要である。わが国では、水生生物の環境標準としてメダカが用いられてきたが、昨今の環境の変化により現在では絶滅危惧種となっており、新たな環境標準生物を対策する必要性に迫られていた。そこで、我々は本研究計画において、福島県内に生息する水生生物について調査を実施し、コイが次世代の環境標準生物として最も有望である可能性を見出した。われわれの開発した評価方法は、コイのヒレの一部を用いて細胞を初代培養し、従来から環境影響の評価に用いられてきたコロニーアッセイ法により、放射線や化学物質による影響を評価しようとするものである。コイは水質の汚染に強く、様々な環境に適応して生育するだけでなく、その寿命も50年以上と人類に匹敵する長さである。われわれの開発した方法では、試料を採取する個体を殺傷する必要がないため、同一の個体を経時的に追跡して反復的に解析することも可能であり、環境影響の蓄積を評価する目的にも利用できる可能性がある。コイ以外の水生生物では、フナ、モツゴ、ドジョウなどの日本に固有の淡水魚においても同様に有望な結果を得ている。一方、外来種であるオオクチバスやカダヤシ、ブルーギルなどについては、ヒレ細胞の初代培養は全く成功しなかった。これら外来種に由来するヒレ細胞を培養できなかった理由については現時点では不明である。
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