最終年度は、前年度の実施状況報告の「今後の研究の推進方策」に書いたように、「アイヌ民族のTEKや言語の再生と二風谷地域の内発的発展」に取り組むべく、4,5月は二風谷において現地調査を行い、6~8月はスウェーデンにおいてサーミの言語と文化の再生に関する調査を行った。その成果の一部は論文”Japan's Policies towards the Ainu Language and Culture with Special Reference to North Fennoscandian Sami policies”にまとめ、国際的学会誌のActa Borealiaに投稿し、査読後、31巻2号の152-175頁に掲載された。また、貝澤耕一氏らを招いて11月から12月にかけて公開講座を行い、3年間の研究成果を地域社会に還元した。 3年間の成果を当初の研究目的の「何をどこまで明らかにしようとするのか」に基づいて振り返ると、以下のようにまとめられる。 1)日本のアイヌ政策の問題点 日本のアイヌ政策を歴史的にとらえるとともに、戦後の国際社会における国際人権法の進展を踏まえて、日本のアイヌ政策は権利保障という点において国際基準からはかけ離れていることを北欧諸国との比較から論じた。 2)生物多様性条約8条j項の国内法への適用 日本の法制度には左記の8条j項に関する項目がなく、したがって、アイヌコミュニティのTEK(伝統的知識)の保全が十分ではないことを明らかにし、国際人権規約から8条j項を国内法に組み入れる必要があることを導いた。 3)アイヌのTEKの把握と内発的発展の可能性 アイヌの言語や文化(TEKも含む)の再生について北欧のサーミとの比較を進め、国際人権文書に基づくアイヌ民族の言語や文化の権利の保障が二風谷の内発的発展の原理になることを示した。
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