本研究はアジアの開発途上国における気候変動適応策の隘路を解明し、その打開策の提案を目的としている。とりわけ、気候変動への適応策における科学主導型とコミュニティ主導型の2つのアプローチの差異に着目し、アジア地域の途上国を対象に、適応策の現状を広く把握し、政策・技術・科学的能力・住民理解など多面的な視点で隘路を把握し、望ましい適応策の立案・実施に向けた方策を示すことを目指して研究を行い、以下の成果を得た。 第一に、バングラデシュ、インドネシア、ベトナムなどのアジアの途上国の気候変動適応策における隘路を同定した。とくに、バングラデシュにおける適応策の有効性を4つの判断基準(①後悔のない対策、②可逆性、柔軟性、③安全のための余裕、④適応策間のシナジー)から評価し、適応策の主流化にとって担当機関間の協調体制の整備と政府・自治体における強いリーダーシップが鍵であることを見い出した。 第二に、ベトナム・メコンデルタにおいて、脆弱性評価と認知アンケート調査に基づいて気候変動の認知と適応策を解析し、コミュニティの地形的特徴と社会経済条件によってコミュニティ主導型適応策が異なる実態を明らかにした。 第三に、これらの知見に基づき科学主導型適応策とコミュニティ主導型適応策の双方から適応策のあり方を整理した。途上国における適応策の立案・実施では、長期的指向性をもった科学主導型適応策と現在のニーズへの対応を主眼とするコミュニティ主導型適応策を相補的に組み合わせることが鍵となる。 最後に、適応策戦略に関して3つの目的(生命・健康、生活質・経済活動、文化・生態系)と3つの影響レベルに分けた整理を行い、外力の強さと適応目的によって異なる適応戦略が必要なことを示した。
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